明るい明るい夜の底



「ページワンくん、わたしはどうしようもなく酔っています」
「……自己申告どうも」
 いきなりこちらの部屋に飛び込んで、おれの膝の上に寝転がったと思えばこれだ。彼女のやることだ、確かに可愛い、で済ませて良いのかもしれない。だが彼女は猫や小動物ではない。普通の、人間だ。大体五十キロあるかないかとはいえそれがいきなり突っ込んでくるのだ。鳩尾のあたりに。おれが戦闘慣れしたタフな奴だから良かったものの、ノーリアクションでいられるかと問われればノーだ。う、と腹の底から呻きが漏れた。情けない。
「酔っているので、君の命じる通りあーんなこともこーんなこともしちゃいます」
「寝ろ」
「流石変温動物、クールですねー」
 普段の何でもお見通し、と言わんばかりのクレバーさはどこへやら。というか酒を飲ませれば彼女は実質無効化できるのか。そんな気付きはさておいて、彼女をこのままにしておくわけにはいかない。
「手を出されるまで動きません」
「マジで言ってんのかよ……」
 適当に喋らせて彼女が寝落ちするのを待つかと思ったが、少々難航しそうだ。
 はあ、とため息を一つ。別に面倒ではない。正直舞い上がっている……が、ここで喜び勇んで彼女の言葉通り動くのも何か違う気がする。マスクを顎までずり下ろす。噛み付くような、キスをした。
 ふ、とわざとらしく呼吸音を漏らす彼女。調子が狂う。彼女はこんなに御しやすくない。至近距離で拝む顔や膝の上の体重は彼女そのものなのに、違う女を相手取っているようで嫌になる。酒の匂いが鼻を擽る。弱い方でもないのに、こっちまで悪酔いしそうだ。ずるりと舌を挿し入れる。彼女の短い舌が位置取りに戸惑って忙しなく動いていた。ぐり、と軟口蓋を突いてやれば苦しそうに彼女は呻いた。
「……満足か?」
 はひ、と情けない吐息でもって返答した彼女を抱え上げて、ベッドの上に放り投げた。今の彼女は面白くない。続きはまた今度、適度に抗う素面の時にでも。

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