雨宿り



※アオハル時空



「帰らねェのか」
 誰もいない教室で一人、文庫本を読む彼女に声をかけた。毎日一緒に帰るほど頭は茹っていないが、たまたま通りかかった部屋に彼女がいるとなると話は別だ。
 彼女の前の席に座る。特段追加の課題も居残りもないだろうし、他の誰かと待ち合わせをしているようでもない。ああ、雨が止むのを待っているのか。外は生憎の雨。夕立だろうから、一時間もしないうちに止むだろう。
「傘、貸そうか」
「いえ、お気遣いなく」
 ロッカーに予備の傘も置いている。姉貴にいつ奪われても良いように、と用意しているが流石に姉貴もそこまで傍若無人ではないらしい。幸いなことに。
 沈黙が流れる。雨音に遠くで吹奏楽部の練習する音、室内でトレーニングをする運動部の騒がしい声を背景に彼女がページをめくる音だけがする。
「ページワンさんは帰らないんですか」
「お前が帰らねえから」
 と言ったところで不思議な会話だなと思う。別に彼女が雨宿りしていることと、おれが彼女を待つことは何も関係ない。一緒に帰る約束もしてないし。
「一緒に帰りますか?」
「……ああ」
 ハメられたようで癪だが、まあ良い。というか彼女はこれを狙っていたきらいまである。彼女の方が数枚上らしい。
「もう少しお付き合いいただけます?」
「構わねェが」
「じゃあお話ししましょう」
「何を?」
「そりゃあもう、恋人同士のキャッキャウフフなことを」
「思い付いてんのか」
「そうですね……理想の死に方と葬儀方法とか……」
「絶対違うだろそれ」
「じゃあしりとりでもしましょう。りんご」
「お前はそれで良いのかよ……」
 頬杖をついて、にこにこと笑いながら彼女はご、ですよと急かす。これが恋人同士のキャッキャウフフな会話かと言われれば絶対に違う。違うがまあ、彼女が楽しそうなので良いか。単語のラリーだけの放課後も悪くない。
「……もう一回、もう一回しましょう」
「いやしりとりで負けるって何だよ……」
 存外に彼女がしりとり弱者だったので、雨止みまでに五回戦ほどすることになったが。

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