六畳一間の



「狭いな」
「そうですか? わたしはこれくらいが落ち着きますが」
「猫か何かか?」
 案内された狭い部屋に文句を溢す。でん、と部屋にベッドを据えればもうテーブルすら置く場所がない。まあ常日頃から船で生活する人種だし圧迫感にも慣れているのだが。それに慣れない島に来たときは野宿なんてのもあり得る話。宿屋があったことそのものに感謝すべきだろう。いや別に野宿でも構わなかったんだが、後から姉貴に何を言われるかわからない。
「今回の任務は潜入でしたっけ。珍しい」
「ああ。別に暴虐だけがウチの海賊団じゃねェよ」
 任務というより使いっ走りに近い。散々ササキには「おつかい頑張れよ笑」などと煽られたので半ばヤケだ。姉貴がすぐ噛み付いていたのでもう良いけど。正直自分がいろいろ言われるよりも姉貴を宥める方が一苦労だ。
「良いですねぇ、旅行みたいで」
「何も無ェけどな」
「確かに」
 今夜は仕掛けて来ねえのか、と不審に思う。隙あらば暗器を突き付けてくる彼女だ、今日も例外ではないと思ったのだが。ああアレか。ロマンチックじゃないとかそういうやつか。彼女の浪漫は理解できない。
「今日は暗殺稼業はおやすみです」
「ありがたいなァ」
 ベッドに横になり、色っぽく笑って見せる彼女。もう少女なんて見た目じゃない割に、表情だけは人畜無害な少女のそれ。酒場で微笑めばそこらの男なんか何十人と引っ掛かるだろう。いやそんなことをやってほしいわけではないが。なんというか、彼女は自分の持てるもの全てを武器にしようとしているらしい。それこそ、自分の外見まで計算に入れて行動しているように思える。無自覚の美人よりタチが悪い。
「などと嘘を吐いて襲うつもりでしたが殺る気が削がれました」
「なんだそれ」
「今日は君に合わせます。お好きにどうぞ」
 蠱惑的な言葉を吐く彼女。全てが罠だろ、これ。

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