ショコラプラントH
「おや、レーズンバターサンドをご所望かい?」
「気が利いて何よりだな、Mr.S」
夜九時前のミステリーショップ。生徒の全てが寮生活をしているせいもあって、購買は夜遅くまで営業している。それでもこの時間ともなれば人もまばら、サムも閉店準備を始める頃合いだった。そんな時間にやって来たのはクルーウェル。
「お代は五百マドル」
「……何だ、これは」
硬貨を渡したクルーウェルは、レーズンバターサンドの隣に置かれたマグカップを怪訝に見る。湯気の上がるカップからは濃厚なカカオと、わずかにスパイスの香りが漂っている。
「お疲れのデイヴィスにおまけだよ。ほら、バグチョコ事件、忙しかったんだろ?」
ぱちん、とウインクを挟んでサムは言う。サムも情報収集をしていたとはいえ、基本的に待ちの姿勢だった。けれどクルーウェルはバグチョコの分析からサイエンス部の売り出したグリム・グラムの安全性のチェック、果ては学園長への報告までかなり大忙しだったはずだ。
「そうだな。確かに大忙しだった」
サムが差し出したマグカップを口につける。中身はなんということのないホットチョコレートだ。ほんの少しスパイスを効かせてラム酒を垂らした、大人向けの味には仕上がっていたけれど。
「もう一杯貰えるか」
「ヒュー、欲張りだな」
「ああ。頑張った店主にも一杯必要だろう?」
てきぱきと用意しながら、サムは少し驚いた声を出す。本当に粋というかキザというか。
「実物が無ければ違法性もわからなかったからな」
「褒めるのが上手い!」
けらけらと笑って、サムもホットチョコレートを啜る。二月の中頃。ちょうど一番冷える頃合いにはこれ以上ないくらい良い飲み物だ。
「優秀な子犬たちだからな。味方もしたくなる」
「Exactly!俺も楽しくなっちゃってさ」
気が合うね、と笑うサムに、クルーウェルはこつん、とマグカップを軽くぶつけたのだった。
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