ショコラプラントF



「あら、チョコレート?」
 目の前に差し出された小箱に、ヴィルは僅かに怪訝な顔をした。茶色い紙の箱、金色で箔押しされているのはシンプルかつセンスが光るデザインと、chocolatの文字。二月はヴァネロペ・デーというだけでチョコレートのプレゼントが増える。勿論有難いことではあるのだけれど、モデルとしても活躍するヴィルにとってチョコレートというものは危険物。美味しいからとついつい指が進めば隠し難いニキビが……なんてことにも繋がりかねない。そんな事情をしっかり理解しているであろうルークから、チョコレートと思しき小箱を渡されたことにヴィルは驚いてさえいた。
「ふふ、だと思うだろう?」
 ぱかり。まるでプロポーズの一幕、婚約指輪の入ったケースを開けるようにルークは小箱を開けて見せる。中に入っていたのは小さく宝石のようなチョコレート……ではなく。香水だった。
「香水?」
「一振りでそこはまるでヴァネロペ・デー・パーティ! トップノートは焼き立てのクッキー。ふんわりと雪のような粉砂糖まで頬に感じる柔らかさ。ミドルノートはチョコレート。甘いミルクから段々とカカオの苦さが出てくる様はまるで君のようだろう? ラストノートは落ち着いた紅茶。甘い幸福も良いけれど、一級品の渋く芳醇な香りは心に安らぎを与えてくれる。ね、どうだろうか」
 すらすらと歌い上げるように説明するルークに、ヴィルは毎度のことながら凄まじいわね、と言いながら試しに一振り。彼の言葉通り、今オーブンを開いたかのような香りが漂う。
「とてもリアルね……まさか作ったの?」
「ああ!と言っても協力してもらったんだ。お菓子の香りはトレイくん監修。魔法薬に詳しいレトくんにも意見を貰ってね」
 得意そうなルークがあまりに楽しそうで、ヴィルも思わず笑顔になる。お菓子の香りの香水といえば、通常は子供騙しのものだ。少し背伸びしたい女児向け、とでも言えばいいか、ともかく安価で人工香料の甘ったるい匂いのもの。けれどルークの用意したものは、思わず誰がお菓子を食べているのかと問い正したくなるレベルの再現度。「一振りでそこはまるでヴァネロペ・デー・パーティ!」なんて謳い文句も伊達じゃない。売り出せば飛ぶように売れるだろうものを自分のために作った、というのが嬉しい。これ以上ないヴァネロペ・デーのプレゼントだろう。
「いつも最高の美を見せてくれる君に、感謝の気持ちを込めて」
「いいえ、こちらこそありがとう」

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