ショコラプラントE



「商売上手にも程がある……」
 アズールは頬杖をついて机の上のクッキーを見る。小さなクッキーがたくさん入っているそれはよく見かける商品。決して期間限定品でもなければ高級品でもない、そんなありふれた子供のおやつみたいな品。普段のアズールならば絶対に買わないものだっただろう。
 先ほど、アズールはミステリーショップを訪れていた。特に不足したものもないが、サイエンス部のグリム・グラムの売れ行きを見たかったのだ。バグチョコ事件が落ち着いてからはグリム・グラムのマーケティングを手伝っていたアズール。サムさんのことだから特に心配はしていないんですけど……とその程度だったのだが、見事口車に乗せられてクッキーを買う羽目になってしまった。「いつもお世話になってる双子の小鬼ちゃんにどうかな?」とか「言いにくい感謝の言葉も、お菓子っていう言い訳があれば万全さ!」とか言われてしまえば仕方ない。仕方ないのだけど。
 確かにジェイドとフロイドには世話になっているし、それこそ昔馴染みなので感謝の言葉なんて気恥ずかしくて伝えづらい。今回のバグチョコの一件だって、寮生からの噂を聞いて裏付けをしてくれたのだって彼らが一緒だった。
「何それアズール」
「おや、クッキーですか」
 うわ、と出かけた声をすんでのところで抑える。考え事ばかりして二人に気づかないなんて!それもジェイドとフロイド。背丈も存在感もある二人だというのに。
「もしかしてぇ、オレたちにくれんの?」
「ああ、ヴァネロペ・デーの」
 こう、妙に察しが良いのはどうにかならないのか。否定はできず、されど肯定もしづらいアズールは黙ったまま。
「可愛いですね。エビに小魚、これは……ヒトデでしょうか」
「見てぇ、これタコとウツボもいんじゃん」
「ウツボとは珍しい」
 まだ開けてもいないパッケージに印刷されたクッキーを見ながら騒ぐ二人。
「そ、そうですよ! いつも世話になっていますからね。たまにはこういう言い訳と一緒に感謝するのも悪くない。まあウツボの形のクッキーがあるのが珍しくて買ってみた、というのもありますけど。とにもかくにも……いつも、ありがとう」
 段々と消え入るような声になりながら、アズールは早口で言った。言い訳ならばべらべらといくらでもしゃべることができるけど、こういう、素直な物言いはやはり恥ずかしい。というか母の日でさえこんなに声は裏返らなかった。
「ふふ、わかっていますよ」
「オレたちもさ、アズールに買ってきてんの」
 フロイドが取り出したのは、同じようなよくあるパッケージのお菓子。彼らのはチョコレートのようで、アズールが買ったものと同様、海の生き物がデザインに取り入れられている。
「アズールといると楽しーんだよね」
「ええ。今回も楽しかったですよ」
 それならそうと早く言え! と照れ隠しに言いたくなるアズールだったが、飲み込んで一つ深呼吸。ではいただきましょうか、とにっこり笑って言ったのだった。

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