ショコラプラントD



 トレイ・クローバーは悩んでいた。
 学校内を騒がせたバグチョコ事件も無事解決。しかし彼には、ハーツラビュル寮内で行うヴァネロペ・デー・パーティーのお菓子作りの任がある。いや明確に任されたわけではないが、大抵こういうイベントもののケーキやお菓子は自分が率先して担当している。別にそれが苦ではないし、寧ろ楽しんでいる方。それでも、どうすれば皆が喜んでくれるだろうか、笑ってくれるだろうかと悩むのだ。それに今回はヴァネロペ・デー。お菓子が主役と言っても過言ではない。さてどうするか。去年はガトーショコラだったし、今年はチョコレートを使ったタルトにでもしようか。ああそうだ、ハートのの女王の法律も確認しておかなければ
「ハッピー・ヴァネロペ・デー!」
 そんな思考を弾けさせるように、クラッカーの音と共に元気な声が響く。ハーツラビュル寮談話室。トレイは目をぱちくりさせる。
「サプライズ成功!」
 一番楽しそうにいうのはケイト。トレイの驚きっぷりをムービーに収めながらニコニコと笑っている。
「皆で作ったクッキーだよ」
 リドルによって、まるでメダルのようにトレイの首に掛けられたのは特大のクッキー。トレイをイメージしたらしくクローバー型をした大きなチョコクッキーの上に、スートをかたどった小さなクッキーがいくつかくっついているかわいらしいデザイン。。カラフルなチョコペンで彼の名前と感謝のメッセージが綴られている。ラッピングして長いリボンをつけているのだ。
「いつもパーティのお菓子を作ってもらってるんで、日頃の感謝を込めて皆で作ったんです!」
「大変だったんスよ、リドル寮長ったら『ヴァネロペ・デーは本来クッキーのプレゼントに由来するから……』ってクッキーに拘って!」
 エースはやれやれ、とわざとらしいジェスチャー。トレイに感謝を伝えよう、という提案をしたのはケイト。それにエースとデュースもそれに乗っかり、それならば、とリドルも手伝うことになった。最初は豪勢な三段ケーキを作る予定だったのだが、リドルの意見によりクッキーを焼くことになったのだ。まあ、クッキー作りだけでもかなり苦戦したのでケーキ作りにしなくて良かったのだろうが。
「……驚いたよ、本当に!」
 トレイは少し遅れてそう言った。嬉しくてたまらないのだけれど、丁度良い言葉を探すのに戸惑ってしまった。思えばお菓子の類はいつも自分が用意する側だったし、サプライズもされるより企画する方だったのだ。
「ありがとう」
「こちらこそだよ。本当にありがとう、トレイ。これからも頼りきりにはなるだろうけど」
 リドルは照れ臭そうに言う。いつも感謝しているとはいえ、こうやってイベントに正しい方法で乗っかるのも悪くない。
「他にもいっぱい焼いてるんだ、オレたちの自信作!」
 笑いながら手を引くケイトに、トレイはふっ、と笑みをこぼす。
「じゃあ厳しめに評価しようかな」
 少しだけ意地悪に笑いながら言えば、エースとデュースからは勘弁してほしい、なんて怯えた声。甘いお菓子が中心のイベント、これくらい甘く幸せな空気じゃないとな。トレイは呟いたのだった。

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