ショコラプラントC



「こ、ここまで人気になるとは……!」
 科学室。監督生はため息がてら素直な感想を漏らした。確かにいたずらできるお菓子を作るなんて面白いアイデアだと思ったし、試作品や切れ端(トレイ先輩のお手製なので味は保証されている)が食べ放題だと聞けばそりゃあ手伝いたくもなる。そもそも元の世界であったいたずら系お菓子といえばすごく酸っぱかったり口の中で弾けたりする程度。それがこの世界では獣耳が生えたり髪の色が変わったり、挙句超能力が使えるようになったりするのだ。そんなの楽しくてたまらない。でもここまで大変なことになるとは思っていなかった。元々出回っている不良品を売れなくするために流通させるという作戦だったのが、他の既製品までも抜いて人気商品になってしまうなんて。おかげで毎日とても忙しい。まあ作戦は大成功も大成功だから良いんだけれど。
「もうヘトヘトなんだゾ……」
 グリムもそう溜息を吐く。いくら美味しいお菓子が食べ放題とはいえ、こんなに忙しいとは思わなかっただろう。というかグリム、猫っぽいのにチョコレート食べて良かったんだ。
「でもアイツらの顔サイコーだったよな!」
「確かに」
 サイエンス部謹製のグリム・グラム。いたずら系お菓子が流行っている時期といえど、トレイ先輩と一緒に作ったんだ、と言えばエースとデュースが警戒するわけもない。監督生とグリムは二人に見事猫耳を生やすことに成功したのだ。もちろん笑い話で済むように、効果は三十分程度。それに加えて当時教室にいた生徒から注目されたので「サイエンス部謹製いたずら系お菓子グリム・グラム!ミステリーショップで販売中!」という盛大な告知まで成功している。これをきっかけに、グリム・グラムは売れ筋になってしまったのだ。
「ありがとうね、二人とも」
 レトはにこりと笑って二人(一人と一匹)に言う。レトも疲れが見えるが、それよりも楽しさが上回っているようだ。
「感謝するんだゾ!追加報酬でツナ缶も寄越せー!なんだゾ」
 グリムはテーブルの上でえっへん、と胸を叩いて見せる。レトはそんな彼の頭を撫でている。
「本当はぼくたちが話題になる陰で犯人を突き止めてもらうはずだったんだけど……アズール先輩もサムさんも難航してるみたいで」
 情報収集はあまり上手くいっていないらしい。食べた人の記憶消去までするくらいだから余程用心深いんだろうけどね、とレトは続ける。まあ用心深い、というよりは確信犯。悪いことをしている意識がなければそんなことはしない。
「でもバグチョコの被害者はもう出てないんじゃなかった?」
「そうそう、おかげでね。学園長は『これで良いんじゃありませんか?』って言ってたけど……ここだけの話、クルーウェル先生が躍起になってるみたいで」
 くすくすと笑いながらレトは言う。サイエンス部顧問のクルーウェルは、今回の一件を学園長から押し付け……一任されていた。最初こそ面倒がっていたものの、生徒に危害が加えられているうえに部員が疑われていたので火がついてしまったらしい。元々、「どうせやるなら本気でやれ」というスタンスなのもあるだろうが。
「誰が躍起になってるって?」
「あ、先生……とアズール先輩」
 通常ならば駄犬!とお叱りの一つでも飛んでくる場面だが(実際監督生はかなり身構えた)、当のクルーウェルは上機嫌だ。隣のアズールも得意げに眼鏡の位置を整えている。
「尻尾を掴みましたよ」
「本当ですか!」
 がたん、と大きな音を立てて立ち上がったレト。グリムはしっぽ?と首を傾げながら自らの尻尾をまじまじと見つめている。
「ああ。お前達の菓子が話題になったせいで向こうも焦ったみたいでな」
 いたずらっ子のような笑みを浮かべてクルーウェルは語る。彼らの話を総括すればこうだ。バグチョコそのものが手に入ったので成分分析を行った。有害物質は検出されなかったものの粗悪な素材が使われていた。また、モストロラウンジで情報提供をした生徒により自らの素材(人魚であれば鱗、獣人であれば体毛など)を提供することで安価にバグチョコが手に入ったという証言も得られたという。それらをまとめ、明日にも調査が入る予定だそうだ。
「お、大人の力ってすげー!」
 アズールが大人かどうかは疑問だが、監督生の感想には同意せざるを得ない。サイエンス部の活躍あって、と前置きがあったとはいえここまでスマートに事態を収束させるなんて並大抵の人では不可能だ。というか素直に恐ろしいし、敵に回したくない。絶対に。
 

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