ゾクゾク・ヴァネロペ・デー ショコラプラント@



この話は、夢主を中心とした架空のイベントシナリオです。





「さて、呼び出された理由がわかりますか?」
 学園長室。ここに来るのは眠り姫事件以来だなあと呑気なことを考えながら、レトは首を傾げる。彼の両隣のアズールとサムも同じような表情で、思考のための数秒を沈黙する。サムはともかく、人を笑わせるようなタイプではないアズールとレトまでもが同じ角度で首を捻るものだから、学園長は笑いを堪える代わりに咳払いを一つした。
「生徒のツケ制度についてかい?」
「以前から要望を出していたモストロラウンジ二号店についてでしょうか」
「ぼくの魔法薬のマージン交渉ですか?」
 考えた末、三人はそれぞれの回答を述べる。ミステリーショップは何でも揃う不思議な店。学園内の購買どころでない品揃え故に高価なものも多く、生徒によってはツケや分割払いを認めていることがある。全てはサムの裁量によるものだが、これによる問題が度々生じていた。もちろん彼の手腕のおかげで「踏み倒される」なんてことは起こらないし、利子がつくわけでもない。では何が、と言われれば、それ故に買い過ぎてしまい払えなくなったと卒業後まで引き摺る生徒が数年に一人くらいいるのだ。だからツケ制度をなくすべきじゃないか、という議論が定期的に起こる。
 モストロラウンジ二号店についても、アズールが以前から打診していたものである。彼を筆頭に運営するモストロラウンジは生徒もよく利用し、また学内でのバイト先にもなるということで人気が非常に高いのだ。まあ彼の黒い噂があるのも目を背けがたい事実だが、それをさておいても二号店ができれば喜ぶ生徒がいるのもまた事実。二号店ができれば更なる利益増加も見込めるので学園にとってもプラスになる、というのはアズールの弁だが。
 レトの魔法薬は学園が管理している。つまり特許を持っているのは学園側。それでも魔法薬を考案したのは彼なので、毎月決まった金額を報酬として与えていた。レトはその金額に満足していたが、特段呼び出される理由というものが彼には思いつかなかったのだ。寧ろ自由に魔法薬を作っていいと言われているだけでレトにとっては最高の環境だったし。
「全然違います!まったく、しらばっくれるなんてあなたたちらしくもない……」
 銘々の回答に、学園長は苦い顔をした。仮面で半分以上隠れているので苦いも甘いもあるんだろうか、などと野暮なツッコミは置いておくとして。けれど当の三人には何も覚えがないのだ。
「最近出回っている魔法薬入りチョコレートの件ですよ!」
 痺れを切らした学園長に、三人は頭上にクエスチョンマークを浮かべている。
「ああ!いわゆる面白系お菓子ですね。確か……バグチョコ?でしたっけ。いろんな魔法薬が入っている、よくあるものじゃないですか」
「そんなものがあるんですか?」
「昔からよく売ってるよ。どれも声が高くなったり激辛だったりする程度だけどね。そうか、それで最近マダム・ビアードが売れなかったのか」
 今度は学園長が首を傾げた。てっきりこの三人のうちの誰かが関わっているとばかり思っていたのだ。何せ呼び出したのは禁呪指定ギリギリのものまで揃えてみせる購買店主に商売のチャンスは見逃さない敏腕経営者、魔法薬学の異端児(前科あり)。直接取り扱っているわけではなくとも裏で一枚噛んでいる可能性が高いと踏んでいたのだ。それがこの反応、長い教師人生を歩まずとも彼らが隠し事をしているとは思えなかった。
「困りましたねぇ、健康被害が出始めたのですぐにでも止めたかったのですが」
「健康被害?それは不良品だろ?そんなのウチじゃ扱わないさ!」
「同じく。今後の評判に関わりますからね」
「そもそもぼくはちゃんと許可とって説明してから食べさせます」
 三人の言葉通り、今回の件に関しては完全に濡れ衣であった。サムもアズールもこの商品を扱っていないし、レトも作成に関わっていない。
「無関係さ、残念ながらね」
「でも癪ですね。犯人探しますか?」
「やりましょう」
 へらりと笑ってみせるサムはともかく、アズールとレトは犯人の追求に乗り気だった。学園長に聞いた話をまとめるとこうだ。最近学園内で謎の面白系お菓子が流行っており、健康被害が出ている。その販売元を突き止めようにもお菓子を食べた生徒からは購入した際の記憶が消えている。そのミステリアスさも相まって人気はやまず、更なる被害者が出ているのだという。それで学園長も困り果てて、彼らを呼び出したのだった。
「じゃあ僕はどうにか売り手を追求してみましょう」
「俺も手伝おう。人の絶えないミステリーショップだからね!」
「ぼくは……そうだなあ。もっと質の良いものを流通させましょうか。物見遊山な被害者も減るんじゃない?」
 あれやこれやと話が進んでいくのを、学園長はどうしたものかと聞いていた。このまま彼らの作戦にのっかれば、おそらく最短経路で事件は解決するだろう。しかしながら会話に時々出てくる「商売敵」だの「まだ合法」だのという物騒なワードに目を瞑っていいものか。少しの逡巡を挟んだ末、学園長はぱちん、と手を叩き、
「わかりました。クルーウェル先生にも協力を仰ぎましょう!」
 にっこり。そう笑って言ったのだった。

prev next

back
しおりを挟む
TOP



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -