仰せのままに



「お前、割と従順だよな」
 隣で銃火器の手入れをする彼女に言う。彼女の私物ではない。ウェイターズあたりにさせておけばいい雑用を、彼女はさも宝石でも磨くように楽しそうにやっている。
「そうですか?」
「海賊の世界じゃ珍しいぜ」
 海賊というものは、良くも悪くも反骨精神の塊だ。言うことを聞かせるには圧倒的武力やらカリスマで抑え込む必要がある。どんな下っ端であっても、だ。それに比べて彼女は、おれ以外の命令にもかなり素直に従っている。武器の手入れに料理の準備、果ては医者の手伝いまで。何故か様々な分野に詳しい彼女だから重宝されているらしいが、そこまで応じる必要もあるまい。なお何故彼女の知識がこんな多岐に渡るかは不明だ。絶対に一般人ではない。
「おれを殺すなって言えば従うか?」
「無理ですねー、ライフワークなので」
「そんなもんをライフワークにすんなよ……」
 まあ当然か。再三従いませんと言ってきたことを彼女が今更聞くわけもない。
「それ以外なら……そうですね、毒の入ってない料理を作ってほしいとか、絞め殺さずに着付けをしてほしいとか」
 指折り言う彼女。いちいち言わないと安全性を確保できないのか。殺すな、という曖昧な命令には背くが、指定すれば殺意を除外できるらしい。どんなポンコツ命令系統だよ。
「キスしろ、とかでも良いのか」
「良いですよ」
 けろりとして言う彼女に、マスクをずらし舌を見せる。扱っていたマシンガンを隣に置いて、彼女はこちらへ距離を詰めた。
「……待て。おれに危害は加えるなよ」
「…………仰せのままに」
 今の間は何だ、と言う前に彼女は口から極小の刃物を取り出した。マジかよ、最悪舌を噛み千切るかもな、なんて妄想はかなり現実的予測だったらしい。
 コケティッシュに笑う彼女にどきりとする。ああもう、殺意さえなければ最高の恋人なんだがなあ!

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