つめたい君に贈る



「わたし、君のこと好きだったんですよ」
 隣の彼に呟く。
「本当に好きだった」
 彼を好いている。だからわたしは彼に執着して海賊船に潜入して彼に肉薄した。わたしの思考回路はどうやら世界の何よりも複雑怪奇で、彼を愛しく思えば思うほど殺したくて堪らなかった。まあ確かに、彼を殺して仕舞えばもう誰も彼を好きになることはないし、わたしの中でも彼は絶頂のまま保存される。そんな風に至極理性的に結論付けて、彼の命を狙い続けた。
 いつしか、彼がわたしを好きになっていた。嬉しいと思った。慕情のアウトプットが殺意なわたしを好きになるなんて彼も余程変な人だなあと思ったけれど、もうそんなこと些末な問題だ。真っ当に、ただただ純粋に恋をしたのだと。嗚呼なるほど、わたしの殺人未遂を軽くいなして日常とするのは恋や愛の成せる技らしい。
 相変わらず殺意はわたしの中にある。燻り続けている。それでもなお、彼と一緒に居られるのならば良いかもな、という退屈な平穏は殺人衝動を抑えてくれる。というかわたしじゃ彼は殺せない。それがわかっているので、悪戯程度に留めている。彼以外では恐らく死んでしまうような悪戯だけれど。
 強い彼が、わたしでは殺せない彼が好きだ。彼を殺すことがわたしの恋の終着点ならば、もう既に恋は永遠になっている。叶わない恋は永遠である。殺せないのなら恋は叶わない。彼を殺そうが殺すまいが、わたしの恋はきっと、もう何人も犯せないものになっている。そんなよくわからない理論を展開して、彼を好きなままでいる。
「酷いじゃないですか、勝手に死ぬなんて」
 ぽつりと呟く。ごく穏やかな彼の表情を映す視界が揺らぐ。好きだった。殺したかった。でも死んでほしいとは願っていない。あくまでわたしの手で、ころしたかったのだ。それなのに、それなのに
「いや勝手に殺すな」
「あ、おはようございます」
「最初から起きてたんだが」
「狸寝入りのご協力感謝します」
「マジで何なんだよ…」

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