飴玉1つ、ひとみは2対



「君の瞳、美味しそうな色ですよね」
 まじまじ。至近距離でこちらの顔を覗き込みながら彼女は言う。いきなりそんな近くに来られるといろんな意味で流石に身構えるのだが、彼女は本当にこちらの瞳を見る以外するつもりはないらしい。
「美味そうか?」
 おれの目の色は薄紫色。ワノ国風に言えば藤色だろうか。比較的珍しい色ではあるものの、美味しそうかと言われれば微妙だ。
「ぶどう味の飴玉みたいで」
 そういう。まあ飴と言われたら確かに美味そうかもしれない。
「舐めても?」
「良いワケあるかよ」
「冗談です」
 ふふ、と笑いながら目の前に座り直す彼女。懐から紙袋を取り出し、がさりと漁る。
「冗談ですが。飴玉いります?」
「……毒は?」
「さあどうでしょう」
 ころころと笑いながら、彼女は紫色の飴玉を摘む。目に重なるように持ち上げた。彼女の言葉通り、ちょうど眼球のようなサイズだ。
「一つしかありません」
「じゃあいい」
「本当に?」
「あァ」
 残念です、と言いながら彼女は飴玉を口に含んだ。右の頬が丸く膨らんでいる。
「口移ししましょうか?」
「誰がンな酔狂やるか」
「美味しいのに」
 ころころと口の中で飴玉を転がしながら彼女は上機嫌に言う。彼女はあてにできない。その表情ですら。美味しいですよ、とこちらに寄越した唐揚げが激辛だったこともあれば、平然と飲んでいたジュースがえもいわれぬほどエグかったこともある。もうおれを殺したいというよりはおれに悪戯したいんじゃないだろうかこいつは。
「じゃあ」
 ぐぐ、と身体を変形させる。スピノサウルスの身体を前にすれば、彼女は遥かに小さくなる。
「お前ごと喰っちまうか」
 ぐるる、とついでに喉まで鳴らす。彼女がこれくらいで怯えるとも思えないが、脅しの姿勢くらい取らせてほしい。
「それはそれは……末永くよろしくお願いします」
 恍惚。口角を吊り上げてにやりと笑う彼女。ああそうだ、こいつはこういう奴だった。

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