深夜2時、手を繋いで



 草木も眠る丑三つ時。そんな言葉がワノ国にはあるらしいがまさしくその通り、都は寝静まっている。そもそもこの国には電灯の類がない。火と油の照明だけで過ごす夜ならば寝るに限る。ずいぶん健康的な国だ、と独り言を漏らす。
 こんな時間に巡回なんかしなくても何も問題ないだろうに。そう思うがこれは口に出さない。ウェイターズやらプレジャーズやらに普段はさせているが、たまには幹部が顔を出せとのことらしい。で、そういう仕事が飛び六胞に来るとなると大抵おれかドレークの仕事になるのだ。
「大変ですねー、ページワンさんも」
「お前は何で着いてきた」
「勿論、暗殺チャンスを狙って」
「ああそう」
 暗殺の定義を知ってんだろうか、彼女は。対象に宣言したらそれはもう予告殺人なんだわ。そんな明後日のツッコミは放置しておく。彼女のことだ、けろりとして「なるほど。では予告状でも作りましょうか」とか言うだけだ。
「それはそうとどうして人獣態なんですか」
「こっちの方がいろいろ有利だからだ」
「強そうですもんね」
 歩幅の大きいおれに合わせるべく、彼女は常に小走りでついてきている。そこまでして隣を歩く必要も無いのに物好きなことだ。
「手を繋ぎたいのですが」
「はァ
 彼女の提案に思わず声を張る。彼女に対して何を言ってんだこいつと思うのはもう飽きるほど経験してきたが、今ほど驚いたことはない。
「恋人らしいことしても良いのではと思ったんですが」
「…………好きにしろ」
 しばし考えた後に言う。仕事中だ、と言い張れるほどお固い仕事をしているわけでもなし。往来の絶えた街中、別に誰も咎める奴なんかいない。
「では遠慮なく」
 きゅう、と指の一本を彼女が握り込む。そうか、この姿では手を繋ぐというよりも握っているだけだ。彼女が人獣態であることを気にしたのはそういうことだったか。
「……人獣態でなくて良いのですか」
「今夜は平和だからな」
 ぎゅう、と彼女の手を握り返した。

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