僕を愛さない君が好き



「わたし、君が好きです。ページワンさん」
「いきなりどうした」
 数度目の愛の告白に瞬きをする。命のやり取りをする仲とはいえ、彼女の感情の根底にはきちんと好意がある。だからか時折、こうやって口に出していた。
「君を殺したい気持ちに変わりはありません」
「そうかよ」
 残念だなァ、と付け加える。少しくらい絆されて殺意を放棄してくれたら良かったのにな、と思わなくはない。いや以前よりも頻度は減っているので恐らく、多少は、心情の変化があったのだろうが。
「でもですね、殺せない君と殺せる君では、多分殺せない君の方が好きです」
「あ?」
「わたし程度に殺される君は解釈違いというか」
 何を言っているのか。おれを殺したいと言う彼女が、殺されるおれは認められないと言う。矛盾してんじゃねえか、というツッコミはさておき、おそらく彼女自身もそのジレンマに解答を用意できていないのだろう。好きな相手を殺したい。それでいて自分程度の力で殺される奴を好きにはなれない。まあ後半部分は理解できる。恋愛感情が伴っていようといまいと、自分がいかに強かろうと。斃した相手に対しては僅かながら失望が生じるものだ。彼女が言いたいのはそういうことだろう。いや確信までは持てないが。
「とにかく。これからもわたしは君を殺すでしょう。でも絶対に、殺されないでください」
「誰がお前なんかに殺されてやるかよ」
 売り言葉に買い言葉。そう吐き捨てるように言えば彼女はえらく上機嫌に頷いた。
 彼女ではおれを殺せない。自分と彼女の力量は十分に理解している。そもそも仕掛けられるのを阻止していただけだが、何度も刃を交えているし、それでもう彼女の底は見えた。彼女もなかなかの手練れだが、おれが彼女に殺されることなど絶対にあり得ない。彼女もそれをしっかりと理解しているはず。だからこんな会話を展開したのだろう。妖しく笑う彼女から目を背ける。好かれている自覚があるのなら、そんな顔をしないでほしい。

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