微睡みの果て、あるいは終わり



 明け方。肌寒さに目が覚める。島をナワバリにしているとはいえ生まれながらに海賊、どんな劣悪な環境でも眠れる。だがしかしその分僅かな刺激にも目が覚めてしまうのも事実。不寝番なんかしなくて良いのに、こんな時間に起きるのは少々勿体無い。
「っ」
 うわ、と声が出そうになったのをすんでのところで留める。なんで隣に彼女がいる。いや彼女は定期的にこちらの寝室に侵入しては寝首を掻こうとしてくるのだが、隣で眠っているというのは初めてだ。何だよ、これもまた彼女なりの暗殺方法だとでも言うのかよ。
 身構えたまま彼女を見据える。耳をすませないと聞こえない彼女の寝息はごく穏やか。おとなしくしていれば何の問題もなく可愛いのにな。おれを殺そうとさえしなければ最高の女なんだこいつは。
 まあ無害ならそれで良い。今までも勝手に寝室に侵入しては首を絞めるだのしてきていたし、今更不法侵入を咎める気も起きない。男女が暗い部屋の同室にいることの意味は十分に理解しているが、彼女との間にはそんな空気一切流れそうもない。何なら「命のやりとりというものは性行為よりも濃厚な関わりではありませんか?」なんて言い出す始末だ、残念ながら。
 もう少し眠るか。彼女のことは放っておいて構わない。警戒だけはしているが、彼女ではおれを殺せないからだ。彼女の殺意は本物だが、こちらには及ばない。伊達に百獣海賊団の飛び六胞をやってないのだ。寧ろ彼女の方が無防備というか……おれが気でも違えたら一噛みで殺されてしまうというのに。まあそんなつもりもないが。殺すチャンスだけでなく殺されるチャンスまでも逃すまいとする彼女の貪欲さには参ってしまう。彼女とはできれば数十年くらい殺意と無縁な関係でいたいものだが、これもまた一方通行な願望なのでどうしようもない。
 きっと今朝は彼女の殺意で目が覚めるだろう。全く、なんて物騒で愛おしい朝なんだか。

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