微笑え、向日葵



「ひまわりの花言葉って知ってます?」
「知らねェ」
「私は君だけを見つめる」
 どこで取ってきたのか、立派なひまわりを掲げて彼女は言う。いつもとはガラリと印象を変えて白いワンピースにつばの広い帽子。夏を体現したかのような彼女は随分とありがちでエモーショナルな光景かもしれない。
「というわけでひまわりをモチーフにした殺し方を考えてみたのですが」
 そう、彼女でなければ。彼女は確かに素晴らしい。良い女だとは思う。おれに対して並々ならぬ感情を向けてやがるし。問題はそれが殺意だということ。しかも彼女はそれを恋愛感情だと認識している。だから真っ当にときめいても、大抵全ておれを殺すことに収束する。期待するだけ無駄なのだ。
「素敵じゃないですか、死因:ひまわり」
「遠慮しとくわ……」
 誰がそんな間抜けな死に方しなくちゃいけねェんだ。しかも何ら想像がつかないから恐ろしい。何なんだよ、死因が向日葵って。
「でも残念ながら良いものが思い付かなかったので」
「そうか」
 珍しいこともあるもんだ、と適当に相槌を打つ。向日葵を使った殺し方なんていう大喜利としか思えない題材に真剣に向き合う彼女は愚直というか、可愛いというか。
 ざ、と改めて目の前に向日葵が突き付けられる。マスク越しにもわかる濃厚な植物と夏の香りに眉根を寄せた。何をするつもりだ、と大輪の花を乱雑に避けた矢先。
「は」
「偶には君の喜ぶ愛をしてみようかと」
 一瞬の柔らかい感触に時が止まる。左の頬、僅かに露出したそこへキスされたのだと気付くまでコンマ三秒。
「なるほど、こちらの方が隙が多い」
「ッお前、」
 仮面のように向日葵を翳し表情を隠す。それからふふ、と半分だけ顔を出して笑う彼女は、あんまりにも蠱惑的。
「どうでしょうか。ページワンさん」
 ああクソ、一人前にドキドキしたなんて言いたくねェ!

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