神様の名前



「この世に神がいたのなら、きっとどうしようもないろくでなしです」
 唐突に呟いた彼女。彼女は時折こういう、回答の出ない思考を披露することがある。大抵どれも理解し難いものだが、考え事をしている間はこちらに殺意を向けることをしないので良しとする。
「だってわたしと君の趣向を同じにしてくれなかった」
「まあ……それはそうだな」
 彼女にその考えがあったとは驚いた。好きだから殺したいなんていう狂った思考はあくまで彼女本来のもので、即ちその思考が異常であるという分析までできている。正気のまま狂わされた彼女の趣向が、もしも神などというものに与えられたものだったなら、彼女の言葉通り神というものはろくでなしの最低野郎だ。
「まあ良いんですけど。今更神に祈ったところでわたしの感覚は変わらないでしょうし」
「お前なら神殺しくらいできそうだな」
「まさか。わたしはあくまで普通の人間ですよ」
 種族も育ちも特筆すべき点は一つもありませんし、と付け加えた彼女にマジかよ、と内心思う。そんな奴は飛び六胞たるおれに肉薄しないし、殺人未遂も絶対にしない。
「仮に。君とわたしでそのろくでもない神とやらを殺せたら、二人きっとハッピーエンドでしょうか」
「さァな」
 ハッピーエンドにはならない。彼女もそれをわかっていてこの問いを投げかけている。愛の言葉を交わし、暴力を伴わない身体接触をして、互いの存在が一番大事なものだと慈しんで。そんなイフに憧れないわけではない。曲がりなりにも彼女のことを好きなんだ、おれは。この胸の高鳴りが命の危機に伴うものでなければ良いのにと願ったりもする。
「もしそんな神様とやらがいたら噛み砕いてやりてェな」
「ええ、本当に」
 まあ、そんな妄想は現実にはならない。彼女とおれの間に殺意が存在しないなんざ、多分来来世あたりまでは無理だろう。この恋が神のせいにできたとして、恋心までは殺せない。

prev next

back
しおりを挟む
TOP



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -