君の名を呼ぶ



「ページワンさん」
「ん」
 不意に呼ばれたので返事をしたが、彼女から名前を呼ばれることなど滅多にない。何か緊急の用事でもあったか、と首を捻る。別に名指しなどされなくても彼女が主に会話をするのはおれと決まっている(らしい)ので、変な気分だ。
「いえ。ちょっと呼びづらいなと」
「人の名前呼んどいてそれかよ」
 確かに、彼女はいつも律儀にさん付けをする。前述の通り滅多に機会がないとはいえ、面倒だと言われたらまあそうだろうな、と思う。七文字の発音は当のおれからしても長く感じる。
「呼び捨てで良いんだが」
「…………ぺーたん」
「ぺーたんはやめろ!」
 脳裏に浮かぶ姉貴。姉貴はまだ良い。面白半分嘲笑でもってそのあだ名を使う同僚数人が過ぎる。勘弁してほしい。というかそんなうわついたあだ名を彼女から使われてみろ、まるで往来のバカップルみたいじゃねえか。
「だめですか」
「駄目だ」
 バカップルみたい、と言ったがそれよりなにより、彼女から「ぺーたん」などと呼ばれているのをフーズ・フーあたりに見つかった時が最悪だ。今以上に茶化されるに決まっている。
「じゃあ何が良いですかね」
「だから呼び捨てで良いって言ってんだろ……」
「ぺじたん……」
「一歩も進んでねえのよ」
 彼女はどう足掻いてもオリジナリティ溢れる、或いは頭の茹った呼び方をしたいらしい。仮におれと彼女が一般市民のモブだったらそれもそれで構わなかっただろうが、生憎おれは海賊だししかも幹部だ。部下に示しがつかないというか、なんとも情けないというか。いや嬉しさも勿論あるのだが、それにしては恥ずかしさが勝る。
「いえ、いざ君を殺すと考えたとき、最期に囁かれたい呼び名は何だろうかと思ってですね。呼び捨てでは芸が無い」
「それこそいつも通りで良いんじゃねェか?」
「なるほど。ではそうしましょう」
 にこり。思わず身構える。いい加減おれを殺すことそのものを諦めてほしいものだが、そう上手くはいかないらしい。
 

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