遠いひびに寄せて



 姉貴は、兎にも角にも頭が良い。
 普段の振る舞いから無謀で乱暴な世間知らず、と言われることもままあるがそれはまた別。生死に関わる場における選択は絶対に間違えない。おれたち二人が百獣海賊団の中で幹部にまでのし上がったのも、幼い時の姉貴の独断によるものが大きい。戦闘の強さも、あの頭の回転の速さから来るのだろう。単純な力では優っていても、未だ姉貴には敵いそうもない。
 何故突然姉貴の話をしたかといえば、姉貴が彼女に目をつけたからである。彼女はおれの命を「愛ゆえに」狙っているという変わり者で、それだけならば噛み捨ててしまえたのだが、うっかりこちらも恋をしてしまった。だから毎度、諦めて恋人になれ殺されて永遠になれと問答を続けている。今は一応おれの部下ということにしているが、こちらへの殺意は健在である。そんな彼女が、姉貴に見つかってしまった。かなり大問題である。姉として、弟の命を狙う奴を野放しにするわけがない。それもあの姉である。バイオレンスと過保護が同居する姉が、彼女を見逃すはずがないのだ。まずい。流石に好いた女の頭蓋がくす玉のように割れている様は見たくない。
「お前か、ぺーたんの新しい部下はよ」
「ええ。いつもお世話になっております」
 呑気に挨拶なんかしている場合か。いや二人の会話に一切入り込めず縮こまっているおれがいるのも事実なのだが!
「日々ページワンさんに悪い虫がつかぬよう影ながら見張っております」
「よし!ぺーたんを頼んだ!」
「嘘だろ姉貴ィ
 思わず口を挟んだ。もっと何か重大なものを見落としていやしないだろうか姉貴は。いや違う。姉貴の直感が間違えたことなど一度も無いのだ、無いのだけれど。
「私よりも弱ェからな。大丈夫だ」
「お姉様公認ですね」
 真顔でダブルピースをしている彼女ほど、肝の座っている奴もいないだろう。後ろで誰がお義理姉様だって? と姉貴が首を傾げているのを気付かない彼女でもあるまい。

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