今日はハレの日



 陽の当たるところにいる彼女が目についた。比喩でなく闇や影に潜んでいると言われても信じてしまうくらいには気配を上手く消す彼女だ。そもそもあまり単独で行動しているところを見ないので珍しいこともあるな、とぼんやり眺めている。彼女は簪を手に、首を傾げていた。
「どうしたんだ?」
「貰ってしまって、どうしようかと」
 きらきらとガラス細工が揺れる。金色の金具に雫のようなガラスを鎖で繋げた、かなりシンプルな作りの簪は、おそらく縁日の品物だろう。今日は豊穣祈願だとかで祭りをやっている。
「着けたら良いだろ」
「簪はあまり得意じゃなくて」
 意外だ。料理から銃火器の扱いまで何でもそつなくこなす彼女にも不得意があるのかと、素直に驚いた。彼女の見た目であればきっと似合うだろうに、と思っていたのだが。
「そこのお嬢さん、そうです貴女です」
 しばし悩んだ挙句、彼女は近くを歩いていた子供に簪を手渡した。まだ幼いが、ちょうど装飾品に憧れる年頃だろう。目を輝かせてお辞儀して弾んで去っていった。
「てっきり暗器にでも使うんだと思ってたが」
「その手がありましたね、惜しいことをしました」
 簪を研いで後頭部に刺せば一発ですしね、とさも今日の献立を考える気軽さで語る彼女にため息を一つ。どうやら要らぬご意見をしてしまったようだ。
「でもまあ、イメチェンも視野に入れてみましょう」
 彼女の言葉に、ほんの少し胸が躍る。彼女は彼女であるだけで十分魅力的なのだが、違う一面が見れるとなると嬉しくなるのも事実。いや単純に好きな相手ならどんな格好でも見ていて飽きない。特にこちらを殺そうとしていない彼女ともなれば尚更。
「君が呆気に取られているうちに仕留めるのも悪くないでしょうから」
 ああそうだ。彼女の思考は、その全てがおれの暗殺に向いている。案の定。わかっていたとはいえ悔しさが募るのだった。

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