どうしても、と”   ”が言うので

※いろいろ注意

「どうした、ねえちゃん」

 相も変わらずざあざあと降る雨の中、戸口に少女が立っていた。
 スカル団が解散したとはいえまだ人の寄り付かないポータウン、定期的にやってくる彼女を除き訪れる者はほとんどいない。そんな少女もチャンピオンをやる傍らであるのでここに顔をだすのも不定期であり、二日続けて来たかと思えば一ヶ月来ない、なんていうのもザラにある。ちなみに今回は三週間ぶりだ。
 また傘もささずここまで来たのかとずぶ濡れの少女にタオルを投げてやる。風邪をひくからと何度言っても一向に聞かないのでもう諦めた。タオルを渡し熱いコーヒー(ミルクと砂糖を多く入れた最早カフェオレのようなものだが)を振る舞ってやる。そうして髪やら服やらが乾くまで他愛もない話をして、雨が少しだけ止む時間を狙って帰っていく。これがいつも通りだ。確か少女がチャンピオンになってからの習慣だったと思う。

「…?」

 少女は受け取ったタオルの手触りを確かめるように手でつつき、頬に擦りつけている。思わずその様子を観察する。拾ったニャースが、確かあんな行動をすることがあるような。暫くそうして飽きたのか、ソファの上にタオルを置き、自らのカバンをがさがさやって、ボールを一つ、取り出した。紺色に縱?にライトブルーのラインが入り、まるで黄金のツメで掴んだような装飾―ウルトラボールだ。UB捕獲の際にエーテル財団から渡されたものがまだ余っていたのだろう。少女はそれをこちらの手に握らせてくる。

「おいおい、余ったのならエーテル財団に返却したほうがいいんじゃないかい」

 渡されても国際警察から身を引いた自分にはどうしようもない代物だ。というかそもそもUB捕獲に関しては情報提供者の立ち位置だったのに、何故。精々No.836にでも渡しておけば良いものを…と思いかけて、あああいつ人の話を聞かなかったのか、と一人で納得した。
 ぎゅうと小さく雨で冷え切った手で包み込んで、それではいけない、と言うように少女は首をゆっくり横に振った。そうしてこちらを見上げる丸い瞳に負けて、少女の言うとおりに、ウルトラボールをボタンのようになっているところを少女に向けて握ってやる。少女はにこにことそれで満足だ、と満面の笑みを浮かべる。
 ああそういえば。この少女も、以前からどこか不思議なところがあった。こおりタイプのポケモンと仲良くなりたかった、と薄着でラナキラマウンテンに篭もる。いけると思った、と崖の上から海に飛び込む(このときは彼女の手持ちのヨワシがうずしおをクッションのように使ったので事なきを得た)。今回も、例えば人間の言葉を喋れないポケモンはどんな気持ちかを知りたくて、なんてところだろう。今気づいたが少女の身体に、ところどころ鱗のようなものが付着している。瞳はホクラニで見えるような、濃い青に淡い色の星が散らばっているデザイン。用意周到なことだ。似合うかな?と時々カラーコンタクトをしていたがその一種だろう。
 まあ満足するまで付き合ってやるか、とどうすれば良いのか聞こうとしたところで、ボールを握った手を少女は両手で掴み、頬ずりをして、頭でコツン、とボタンを押し込んだ。

 途端、バシュン、と大きな音がする。あの、モンスターボールをポケモンに使ったときの音だ。いやおかしい。だって、彼女は、人間だ。モンスターボールが作動するはずがない。ウルトラボールなのだから余計にそうだ。これはウルトラビーストにしか効果がない。しかし少女の姿は消えており、握り込んで離せなくなっているボールは手の中で震えている。あの、ゲットできるかどうかで揺れ動いているときと同じ動きだ。

「、……っ!」

 何かの手違いだ。
 恐る恐る、ボールを放る。
 やはり音とともに少女が飛び出てきて、すぐさまこちらに寄ってきて頬を擦り付ける。

「ミヅキ、」

 初めて呼んだ少女の名に、彼女は口を開く。

「     」

 キュウ、と小動物のような声に混ざった鈴の音、そして電波のような残響音が響いた。


□□□□□



?????の所持していた手紙

『ウルトラビーストを保護してから、わたしは彼らに好かれているようで、時々ウルトラスペースに連れて行かれます。きちんと"こちら"へ帰してくれるので大丈夫です。
でも最近、からだの調子がおかしいのです。うろこがうでとかほっぺに生えて、目は宇宙みたいな色をしていて、ふとしたときの声が、彼らの声に似たようなふしぎな音になっています。多分、わたしも、ウルトラビーストになっていっているのだと思います。きっと"向こうがわ"に行きすぎたせい。はかせや、財団の人に伝えてください。チャンピオンは■■がやることになってるので安心してください。
ウルトラビーストになればきっと"むこうがわ"からもどってこれません。なので、□□□□さんにゲットしてもらおうとおもいます。ウルトラボールが使える筈です。ウルトラビーストたちにはわたしといっしょにいてもいいし、かえってもいいと言っています。かれらを知っていて、万が一暴走してもたいおうできるので□□□□さんにつかまえてもらいます。"ミヅキ"が彼を好きだからというのもちょっとあります。ああもうわたしは"ミヅキ"じゃないのかもしれない
 迷惑をおかけします。ごめんなさい
 ミヅキ
 追伸
 ◆◆◆◆には、ミヅキは死んだって言ってください。』

手紙はところどころ汚れている…





No.???
?????(仮名称:UB00 MOTHER)
高さ 1.4m  重さ 35kg
ノーマルタイプ

とても弱いが 他のUBを 従わせているので 危険。 かつて 行方不明になった アローラの 初代チャンピオンに 似ているという 噂もある。



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