朱に交われば

 女の、ふわりと白い髪が好きだった。円く大きな色素の薄い瞳が好きだった。何にも染まりうるその色が、何にも染まらず純潔のまま、綿花のようにあるのが堪らなく好きだった。
「…大包平、さん、そろそろ、霊力を…頂きたく…」
 幼子のように眼を擦る女は、もうじき活動限界を迎えるらしい。霊力の不足により滾々と眠り続けるその姿を、あろうことか、愛おしく感じてしまった。僅かな呼吸音とともに薄い胸が上下するその様が、いつか女が短刀に読み聞かせていた南蛮の御伽噺の姫のようで、あまりに愛おしいと。物言わぬ人の子が何故、こんなにも。
「…眠っておけ。最近は供給ありきで無理をしているだろう」
「けれど…」
「構わん。今日はもうやることも無いだろうに」
 反論はもう無かった。机に突っ伏し穏やかな寝息を立てる彼女を抱え上げ、寝台へ寝かせる。この柔く、薄く、軽い身体がこの本丸の刀剣男士全員を動かしているのだからこうなるのも当然である。脱力した彼女を横たえ、するりと髪を梳く。
 適当な言葉で誤魔化したものの、ただ女へ霊力の供給を行いたくないだけでもあった。供給を行えば、彼女の髪と瞳は男士の色に染まる。毛先に向かって男士の髪色を纏わせ、瞳をそのまま移したように輝かせる姿が気に入らなかった。これからは審神者業を再開できますよ、とにっこりと微笑んだ女の藤色の瞳を、白と紺色のグラデーションを見て、「ああ穢されてしまったのだ」と思った。その後自分の色に染めてもなお、その認識は変わることがなかった。桃色から緋色のグラデーションの髪で戦場の部隊へ指示を出す彼女の不完全さにただ腹が立つだけだった。食べ散らかした後の皿と同じだ。気持ちが悪い。その姿を独占欲の末に美しいと表現するものもあったが。
 愛おしい。早く自分のものにしてしまいたい。霊力を注ぎその魂を変質させ神域へと囲ってしまいたい―そんな、神が人の子を愛するにあたり当然の本能と、清いままであってほしいというこれもまた当然の理性が、ぐらぐらと天秤を揺らし続けている。
「…ッ」
 するすると撫ぜていた女の柔らかな髪が、薄らと赤く色付いている。忌々しい、彼女に触れていた手を、掌に爪が食い込むほどに握りしめる。部屋の明かりを消し、差し込む月光をきらきらと反射するその御髪が目に入るように床へ腰を下ろす。明日になればまた別の、他の色を宿し彼女は生きていくのだろう。どの感情ともつかぬ黒々として、俺になど似合わぬものが胸の底に渦巻いていた。



back
しおりを挟む
TOP



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -