朝露の頬

 夜明けの度に、少女は涙を流していた。
 最早宗教画のようなその光景に幾度となく溜息を漏らし、そうして震える指でそうっと触れて雫を掬うように拭う。少女に強請まれては同じ寝台で眠っている自分だけに許された特権だった。
 レディが男と軽々しく添い寝などするものではない、と断ること数度。根負けしたのはこちらだった。彼女には何の下心もなく、ただ、隣で眠ってほしいというだけである。睡眠という無防備な時間に見張りを付けたいのか、眠りが小さな死であると彼女が認識しているのならその見届人を探していたのか、エーテルで編まれたといえど人肌の温度に安心したいのか、それら全てか。幾度夜を越えても未だわからないでいる。
 普段決してマイナス感情を見せない少女は、マスター…いや、将としては完璧なのだろう。問題は、少女が将でありながら"少女"であることだった。年端もいかぬ彼女がこの僅かな時間しか泣くことのできないのはどんな苦痛であろうか。日々蓄積していく感情を、微温い雫にして排泄する。なるほど合理的だ。合理的である、が、けして少女に背負わせてはならないものだ。少女は、王ではない。
 愛おしい少女が、今日だけでも幸せであれ。すっかり冷え切った雫を握り込み僅かばかりに祈りを捧げる。これももう、毎朝のことであった。



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