名前を呼ぶことすら億劫だ

 どうやら風邪を引いたらしい。全身がぐつぐつと滾るように熱く、呼吸するごとにひゅうひゅうと嫌な音がする。情けない、サーヴァントの身になってなおこのような状態に陥るとは。マスターに忠誠を誓った以上、いつ何時も彼女を守らねばならぬと言うのに。
「…ガウェイン、大丈夫?」
 薄っすらと重いまぶたを上げる。潤んだ瞳のやけにぼやけた視界の中に、橙が見える。ああ、マスター。よろしくない、こんなところに来ては。いくら毒耐性があるとはいえ彼女に移してしまう。けれどもそれを忠告する気力もない。余程重い風邪を引いてしまったらしい。
「気休めにしかならないけどおでこ冷やすね。ごはん…は食べられそうにないかな」
 少し痛みを伴うくらいに冷えた(自分があまりに熱いのかもしれない)タオルが額に置かれ、多少マシにはなった、と思う。
「マ、ス…ター」
「あああ無理しないで!わたしがどうにかして治すからね、安心して」
 太陽のようだ、と思う。肉体が弱ると精神も惰弱になっていけない。常に彼女の傍にいたい。もうそれしか考えられないのだ。もしや、私が彼女に抱いているのは忠誠心だけでなく――。



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