きみが花だったら

 貴女が花であったならば、さぞや可憐な花でしょう。
 私の祖国と同じ風を受け、静かに頭を揺らす。花弁が大きいわけでなく、特別美しいと讃えられるわけでなく。花畑の中、他に埋もれるように、けれどしっかりと目立って凛と咲いている。蝶に蜂に多くに好かれ、身体を喰われることも愛おしげに見るかのように、ただただ凛と咲いている。
 それがどうにも可哀想に思えて、きっと私は鉢に移し替えて家に持ち帰るのです。貴女はそのまま愛され喰われ土へ還るのを幸福としていたのかもしれない。けれど見ていられなかった。寝台の傍の窓辺に置き、朝夕と声をかけ、日に一度だけ水を遣る。そうやって暫く過ごせば一年草であるらしい貴女は種を残し枯れてしまうでしょう。ああせめて枯れる前に元の場所へ戻してやるんだった、と後悔しながら枯れた貴女を埋めに行く。そうして数粒ばかりの種だけ頂いて、今度は庭に蒔くのです。そうして来年、再来年と続けていけば私の周囲は貴女で満たされる。その中で、私は静かに生を終えるのです。
 きみが花だったら、きっと綺麗な花だと思う。
 綺麗だ、なんてありふれた言葉だけど、頭の足りないわたしにはそれくらいしか表現の仕方がなくて、どうにかそれ以外の言葉を見つけたくて、毎日毎日きみを見に行くのだと思う。でも何日通っても「綺麗」しかわからなくって、とても悲しくなる。
 きみは木に咲く花なので、一ヶ月も見ることはできないと思う。でも来年も再来年も、きっと同じように花を咲かせるはず。学生の身から社会人になって、それでもまだ同じところにあって、同じ景色を見せてくれる。おばあちゃんになってもあの花が見たい、と病院を抜け出すのだ。そうして最期に、ああ結局名前すら知らなかったなぁ、と少しだけ残念に思うんだろう。



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