「もっと。」

「…っロビン、」
 流石に目に毒だ。オレの腕の中で女が蕩けた顔をして上目遣いまでしている。息も荒い。いやあこれは据え膳でしょう、どう考えても。
 …とストレートにいかないのがつらいところだ。腕の中の女はオレのマスターだし、これは仕方のないことだし。
 マスターは不眠症のきらいがある。以前それを相談されたときに「じゃあ魔力供給でもなんでもしてわざと気絶寸前まで魔力減らしちまえばいいんじゃありません?」と適当に返事をしたのだが、「そうだね!ロビンにお願いするね」と返されるとは夢にも思わないだろう。マスターの時代風に言えば「学校に行きたくない?爆破でもすれば行かなくて済みますよね」程度の返答だ。ネジがいくつかとんでしまったのか藁にもすがる思いなのかはさておき、彼女はそれをナイスアイデアだと褒め称えたのである。頭がおかしい。
「もっと。」
「…もうおしまい、朦朧としてんだろ」
 魔力供給はキスで行っている。流石に不眠症程度であんなことやこんなことをしようとまでは思わなかったようで安心する。貞操観念はまだ大丈夫だこのマスター。
「…やだ」
「やだじゃないですよ、ほら寝た寝た。男は狼って言うでしょう?」
 医療行為に等しい。けれど正直、瞳にハートマーク浮かべるような恍惚顔で何度も強請られて冷静でいられるほどオレができた奴じゃないことは彼女も百も承知のはずだ。…まあ何度も何度もキスしてきてそれを言える立場じゃないことは確かだが。
「……ロビン」
「もうナシですよ」
「…ロビンになら、いい、」
「は」
 マスターの頭がこてん、とオレの胸に倒れ掛かるようになる。いや、これは、本当に、
「マスター、アンタ自分が何言ってるかわかって、…マスター?」
 肩を掴んで最終警告として叱ろうとした矢先、すうすうと規則正しい呼吸が耳に入る。
「…はぁ」
 眠りに入って脱力したマスターをベッドに下ろし、毛布をかける。
「オレだって我慢の限界ってもんがあるんだからな」
 既に聞こえていないだろうマスターにそう言って、部屋を出る。あー、まったく困ったマスターだ。



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