スターチスの唇
彼が退去する直前に想いを告げた。ヘクトール、貴方を好いていますと。わかっている。生前の彼には妻子さえいたのだから。ただ彼はありがとう、とだけ、キスと共に寄越した。エーテルで編まれた身体だというのに、酷く柔らかかった。
殆ど牢のような部屋。硬いベッドに寝転がり唇を指で辿る。どんな感触だったか、もう思い出せないでいた。
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