囁かれた名前

「あ…」
「『愛した/愛する女を全て挙げろ』…?」
 扉に書かれた文字列は、何度目を擦ろうと何度読み返そうと変わりはしない。こんなトラップ、二次元だけの存在じゃないのか。っきーが貸してくれた薄い本にあったぞこういうの。「〇〇しないと出られない部屋」ってやつだ。
「またタチの悪い…」
 わたしの横でそう舌打ちをしたのはロビン。彼とは明日の作戦を練るためにマイルームに向かっている途中だった。っていうかなんでこんな部屋がカルデア内に。まあ十中八九仕掛け人はダヴィンチちゃんなんだろうけど、あまりにも第二の生をエンジョイしすぎじゃないか、彼。
「ごめん…部屋よく見なかったから…」
「いやマスターに非はねえよ。にしてもオレはロビンフッドの集合体なんですがどうカウントされるんですかねぇ」
「んー…とりあえず思いつくだけ言えば許してくれるんじゃないかなあ。多分これ作ったのサーヴァントだし一生出られないなんて無いと思うし」
 そうだ、彼はロビンフッドその人ではなく、ロビンフッドとされた人々の集合体。今サーヴァントとして目の前に存在している彼もそのうちの一人で、全員。
「はぁ…じゃあ言っていきますんで、ちょっと耳塞いどいてもらえます?お子様の教育に悪い程いるんで」
「お子様じゃないし!」
 そう言い返すだけ言い返して彼の言うとおりに耳を塞ぐ。名を聞いただけじゃわからなくとも聞かれたくないのだろう。無理して聞くことでもないのだから。過干渉は良くないことだし、そんなに時間の掛かることでもない。
「…終わった?」
 とんとん、と肩を叩かれたのでそう聞き返す。こくりと彼が頷くのを確認してから手を下ろした。
「…開かないね?」
 スライドするはずのドアは全く動く気配を見せない。
「ええ…流石にもう思い出せませんわ…」
 二人して頭を捻る。わたしも言わなきゃなのか、と家族や友人の名を羅列していくけれど一向に開かない。
「…くっそ、マジでタチが悪ィ…」
 何か思い当たったのか、顔を顰めたロビン。どうしたの、と聞く前に彼はぼそりと短い単語を聞き取れないくらい小さく呟いた。
「何言って…あ、開いた!」
 ふぉん、と近未来的な音がしてドアが開きいつもどおりの白い廊下が広がる。よかった、なんとかなった。
「やっぱり言い忘れ?」
「あー…そんなもんですかね。あと作戦会議は明日の朝にしてくれ」
「いいけど…」
 こちらへ顔を見せないようにフードまで被ってしまって、変なの。それじゃ、と行ってしまった彼を見送った。ううん、なんで最後だけあんな反応したんだろう?



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