愛されなかったから愛したんだと彼は言う

「ん…まだはやいよジャック…」
 ベッドからそろりと抜け出そうとしたところ後ろからぐい、と腕を掴まれ横になっている彼女の腕の中へ頭を収めることとなった。寝言に近い彼女の言葉は、寝ぼけているために私をジャック・ザ・リッパーと勘違いしているようだった。身体の大きさも何もかも違うというのにその間違いがおかしくて愛おしくて、ついふふ、と笑いをこぼした。
「…せんせ…?あ、っ!?いや、その、すみません!」
「いえ、構いませんよ」
 あたふたと慌てる彼女を落ち着かせるようにそう言って髪を梳き撫ぜた。
「……先生」
「はい」
「よ、よろしければ、もうしばらくこのままでも…?」
「ええ。私も心地が良いので」
 ありがとうございます、と照れからか彼女は消え入るほど小さく呟きぎゅう、と腕の中の私を抱きしめる。包み込むように私の頭と自らの胸部が同じ位置になるような体勢で、幼子にするように頭を撫でる。時折背をとんとん、と軽く叩きまるで寝かしつけようとでもしているかのよう。
 ゆったりとした彼女の心音と寝起きで温い肌が心地よくうっかり眠ってしまいそうになる。彼女は度々こうやって私を甘やかそうとした。愛に形があるのならばきっとこれは、内側がひどく歪んだものだろう。心の隙を埋めるように他を愛して自らも愛される錯覚を得ているのだから。私も「愛されなかったから愛した」と自己否定的に私自身を分析した時期もあったのだが。
(それは彼女も、同じではないですか)
 この環境で歪んでしまったのか、ここに来る前からそうだったのか。測りかねるものの、彼女からの愛を受けるのは悪いことではないはずだ。その分こちらも愛すれば良いだけのこと。傷の舐め合いのような関係でも、彼女が安らかにあれるのであれば。



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