私を叱って欲しいの

「貴女、また無理をしましたね」
「えへへ…ごめんなさ、っつぅ…!」
 へら、と笑って取り繕おうとした少女に、ケイローンは傷の処置を施していく。これで何度目ですか、と呆れにも似た説教を行う彼はため息をついた。今回は広範囲に渡る膝の擦り傷。木の根に躓いて転んだらしかった。足の怪我ということで顔を真っ青にして担いで来たアキレウスには感謝するべきだろう。少女は過保護だなあと呑気に言っていたが。
「いいですか、マスター、貴女は将なのです。貴女が痛いだけで済まないことはわかっているでしょう?」
「うぅ…今日はそんなに無理してない…ちょっと頑張って走っただけ…」
「それを無理と言うのです。歩くスピードを合わせてもらうか、緊急時にはサーヴァントにおぶさるなどすれば良いでしょう。アキレウスのように乗り物を持つ者もいます」
 ケイローンは薬草から作った薬を少女の傷に塗り込み上からガーゼを当て固定していく。てきぱきという言葉が似合うほど鮮やかな手捌きだ。
「でもあんまり甘えるのも」
「甘えではありません。無理なことは無理なのですから」
 その言葉に少女はしゅんとしてしまう。事実とはわかっていても自分に力も何も無いのが悔しくて悲しくて仕方がないのだ。
「マスター。貴女はよくできた子です。その強さが魔術や筋力ではないだけのこと。自分の強みはわかっているでしょう?そこを活かす戦いをしなさい」
 落ち込んだ少女に目を合わせ彼は優しく諭すようにそう言葉をかける。そして頭を撫でてやれば少女はわかりやすく笑顔になり、はい、と頷いた。
「よろしい。マイルームまで歩けますか」
「大丈夫です!ありがとうございました」
「ええ。それと、アキレウスに報告に行くこと。心配していましたので」
 わかったー、と間延びした返事をして少女はケイローンの部屋から出ていった―ケイローンに見えぬよう顔を恍惚に染めながら。
 ケイローンの父性に、憧れた大人の男性に、少女は夢中だった。包容力のある彼に幼子のように褒められたい。指導されたい。そしてなにより叱られたい。良い生徒とケイローンは言ってくれたけれど、悪い子になってしまいたかった。優等生より問題児のほうが先生に目をかけてもらえるのは当然のことだから。怪我の処置も今は殆ど彼にやってもらっている。全身に走る傷跡がずくりと疼くたびにケイローンの叱咤激励を思い出すのはひどく心が満たされるようだった。
(ごめんなさい、先生)
 幻滅されるに決まっている。それでも止められない。いつか露呈してそれを叱られたなら―そう考えるだけで少女の胸の内はぐつぐつと煮えるようになるのだった。



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