うしろに伸びるのはふたりぶんの影

 日暮れが好きだ。一日の集大成みたいに綺麗な空―焼けるような緋色、空色から緑、黄の淡いグラデーション、仄暗い青。そんなふうに移り変わっていく様子はいつ見ても素敵だ。遊んでみんなと別れた後の帰り道、部活後の窓、家族で遠出をしたときのうつらうつらとしていた車の中。日暮れと結び付けられる思い出は数え切れないほどで、夕焼けを見るたびにそれをひとつひとつ思い返す。さながら小瓶に詰めたビー玉やおはじきをざららとてのひらにあけて、またひとつずつ戻していくような気分だ。
「どうしたマスター、考え事か」
「ううん、ちょっと感傷に浸ってただけ」
「なんだそれ」
 怪訝な顔をしつつも声をかけてきたアキレウスはわたしの隣に腰を下ろした。文字通り黄昏ていたわけだけれど、実際はレイシフト先、やっとこさ見つけた暇だったのだ。
「夕焼けが綺麗だから」
 返事のない彼の横顔を覗き込む。息を呑んだ。黄金の瞳に橙の陽光がきらりきらりと映り込んで得も言われぬ美しさだった。瞳を宝石に例えるなんてよくあるけれど、それでもまだ足りない。満天の星を集めたような煌めき。
「…綺麗」
「ああ」
 ぽつりと返ってきた言葉に我に返る。それでもまだ目を離せないでいる。このまま、彼の金色に淡いグラデーションが映るさまを、仄暗い青が映るさまを、そして星々が映るさまを、ずうっと眺めていたい。
 その思いが新鮮なうちに、小瓶へひとつ、とびきりきらめくガラス玉を入れた。次夕暮れを見たときに隣に彼がいなくてもまた、彼を思い出せるように。



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