「ちゅーしよ。」

「いいよ」
 意外にも彼女の返答はイエスだった。貞操観念がどうなっているのかと呆然とするが要望を飲んでもらえただけでもありがたい。ダメ元で魔力供給を頼んだのだ。別に魔力は十分、ただただ此度のマスターの魔力を味わってみたかっただけ。何しろ自分に供給される魔力は殆どが電力由来のもので、マスターたる少女のものはほぼ流れてこない。それこそ令呪を行使したときくらいか。幸いなことにまだその経験はない。
「一度パスを確実に接続しておけば必要時にスムーズにいくだろうし」
「感謝する」
「うん、じゃあ、ちゅーしよっか」
 ピシ、と何かにヒビが入るような音がした、気がする。
「…何?」
「?魔力供給でしょ?粘膜接触するならちゅーじゃない?」
 まず性行為を期待していたわけではないことを主張しておく。目的は彼女の魔力を味わうことなので。戸惑ったのは、彼女の用いた表現―キスのことを、「ちゅー」と?どこか大人びた様子や言葉遣いに気を取られていたが、そうか、彼女はまだ二十にも届かない少女だ。自分の生きていた時代ならまだしも現代ならば「子ども」の域を出ないはず。
「…アキレウス、ちゅーしないの?」
「待て、ちょっとばかし待ってくれ…」
 衝撃があまりに強い。浮名を流した英雄がこれでどうする。小首を傾げる少女の前で顔を覆った。言動一つで全く情けない!



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