おでこにキスをしよう/(時間なんて、止まればいいのに)/かくれる場所はもうないよ

「マスター、時間だぜ」
「………う」
 もぞり、と白に包まったかたまりが動く。生物ではあるが、人というよりは芋虫や何かのようだ。
「起きてるんだろ」
 シーツに手をかけることはせず、そう緩く声を掛けた。別に彼女がベッドから出られないのは眠気故ではないのだから。
「おじさん」
「うん?」
「……撫でていただけますか」
「ああ」
 ぽこんと橙の頭を目元までシーツから出しこちらの様子を伺う。腫らして真赤な目の周り、掠れてしまった声―また、泣いてたんだろ。
 マスターである少女の蹲るベッドに腰掛け彼女の頭を撫でる。自分が召喚されて間もない頃は陽光のように輝いていた髪もすっかり荒れてしまっている。
「めいわくをおかけします」
 彼女は時折こうやって日々の生活を拒んだ。「もうこんなことしたくない」「逃げ出したい」「目が覚めなければ良いのに」口には出さぬものの彼女の態度がそう語っていた。無理もない。覚悟もなかった少女に戦争させているんだから。
「いいのさ、息抜きも重要だろ」
 ぐす、と静かにしゃくりあげ始めた彼女をただ只管に撫でる。ついでに横になりシーツの中で蠢く少女を抱えるように抱きしめてやる。
 いつの時代も世界は残酷だ。神の消えたこの時代でもそれは変わらないらしい。どこかへ隠してやろうにも、彼女はそれを望まないんだろう。此度も母国を救えないのか、俺は。それでも少しでも彼女に幸福があるように、と彼女の額へキスを落としたのだった。



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