「わらってよ。」

「マスター、機嫌直してくれよ
 ぷい、とそっぽを向いたままの少女。下手なことをした、と自分でも思うが、まさか残っていたクッキーを一枚食べてしまっただけでここまで拗ねてしまうとは。いや正直そんなところもいじらしくて堪らないのだが火に油を注ぐことになりそうなので口を噤んでおく。
「…好きな味だったのに…」
「オジサンが悪かったって」
「……」
 謝ってもだんまりを決め込む彼女にはてどうしたものか、と首を傾げる。既に同じものを用意したところで許してくれはしないだろう…というか向こうも引くに引けなくなっているんだろう。ここで引き下がってはバツが悪いはずだ。
「笑っておくれよリツカ」
 彼女の正面に入り込み頬を両手で包み込む。案の定目は合わせようとしない。
「…たべもののうらみはおそろしいのだぞ」
「何すればいいんだい?」
 にこりと目を細め問い詰める。自分でも意地が悪いとは思う。
「…………エミヤ特製ストロベリーレアチーズケーキ」
「わかった」
「あとおじさんが食べたクッキーでしょ、あんみつ、ガトーショコラ、プレミアムフルーツパフェいちごとマンゴー多め」
「マスター」
 頷いて了承はするもののそう言ってマスターの顔を覗き込む。ふくれっつらのまま三秒睨み合って、もう無理、とでも言うように彼女はへら、と破顔した。やはりこの少女は笑顔が似合う。
「嘘。プレミアムフルーツパフェはいちごだけ多かったらいい」
「はは、こりゃまた大食いな娘さんだ!」



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