愛情のあかし

 彼の心の内が読めないままでいる。
 面倒だの何だの言いながら頼んだ仕事はキッチリこなす。気怠げでのらりくらりとしている一方で、彼の立てる戦術は素晴らしく隙がない。普段からその実力を感じさせないのは彼の生き方を反映しているのだろうけれど、時々彼は複数人いて時々で入れ替わっているんじゃないかなどと考えてしまう。
 そしてやはり彼は本心を見せない。政治家でもあったから簡単に内側を見せてしまうのは致命的なのだろうとは思うけれど、あまりに掴み所がない。けれども彼が人理を守るのに全力を尽くしてくれるのだろうということは確信できた。その過程で、マスターであるわたしも庇護対象に入っている。彼はわたしを自らにとっての母国―トロイアであると言った。全力で愛し守ってみせるとも。
 心強いことこのうえない。けれどもその後が、どうも理解できない。バレンタインデーのお返しに貰った手のひらサイズの木馬。トロイの木馬と言えばトロイアの滅んだ原因だ。どんな意図があるというのか。トロイアに予めデコイの木馬を入れることで本当に危険なものを遠ざけようという願掛けなのか。ただのジョークなのか。それともわたしでは想像もできない他の意図があるのか。(何人かの女性サーヴァントに相談したが皆顔を引き攣らせていた。何故。)
「愛の形であることは確かなんだけどなぁ…」
 コトリ、と手の中で弄っていた小さな木馬をヘッドボードに置き直した。そういえばいつもここに置いている。守られているというのは気分の良いことなので、まあ良しとする。いつか真意は聞き出してやるけど。



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