雨にかくれてキスしよう

「雨、止みませんね」
 広縁のソファに腰掛けた少女は窓の外を眺めながらそう呟いた。ざあざあと庭の木々を打つその様子は、夕立というよりは篠突く雨とでも表現したほうが良い。
「あ、別に早く帰ってほしいわけじゃないですよ?先生さえ良いのならずっと一緒にいたいくらいですから」
 先生、と呼ばれた白髪の男―サリエリは少女のそんな様子を眺めては微笑んでいる。彼は彼女にピアノを教えていた。家庭教師のように少女の家に数日おきに通っているのだが今日は予想以上に長引く夕立に足止めを食らっている。
「…雨は嫌いかね」
「いいえ大好きですよ、雨の音を聞くのも、ちょっと外へ出て降られるのも。孤立したように思えるのが特に好き。今だって世界に先生と二人きりみたい」
 向かいに座る男の元へ少女は寄って手を取った。まるで一流の口説き文句を恥じもせず、雨樋を流れる雨水のように言った少女の瞳は一種の陶酔を孕んでいた。
「そうか」
 サリエリはそう言って徐ろに少女の手を引いた。バランスを崩した少女は結果彼に抱きとめられる形になる。何するんですかと少女が抗議を口にする前に、サリエリは彼女の唇を自らのそれで縫い留めてしまった。
「…っ先生、!」
「いや、世界に二人きりなのだから問題ないだろうと思ってな」
 少しだけ意地の悪い笑みを浮かべたサリエリは少女の手を撫でながらそう言う。まだ雨の止む気配はない。
 



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