どうしてわたしたちは同じでいられないの?

 どうしてわたしたちは同じでいられないの、と彼女は泣きじゃくった。彼女も自分も十二になった頃だ。じわりじわりと外側にも中身にも出てくる性別の違い、これからの未来の差異に彼女は耐えられなかった。彼女は御令嬢、自分は執事の息子。彼女の情操教育のためにと共に生活を送り、まるできょうだいのように育ってきた私達には少々酷な話だ。彼女はやわらかな女性らしい身体に、自分はがっしりとした男性らしい肉体に。夜明けごとに変わっていく自らの身体に気付いて、それが嫌で仕方がなかった。いくら身分が異なると教え込まれていても、性別が違うとわかっていても、それでもずっと彼女と仲良く日々を送っていくのだろうな、と幻想を見ていたのだ。それは、彼女も同じだった。
「ベディヴィエール」
「はい。お紅茶を用意いたしましょうか」
 カタリとペンを置いた彼女。どうやら今日の業務も一段落ついたらしい。
「うん。ベディのお茶はいつも最高だもん」
「ありがとうございます」
 部屋の隅に置いてあったティーセットで、片手間に準備を進めていく。二人きりの時だけ、彼女はこのように砕けた口調になる。昔からお嬢様としての振る舞いが苦手だった彼女に今の生活はかなり苦しいものだろうとこの時だけは私も許しているのだった。
「…昔さ、わたし同じじゃないのがいやだって泣いたの覚えてる?」
「ええ」
「今でもそう思う。一緒に庭を走り回りたいし、木登りだってしたい。いや無理なことはわかってるよ、それでも、さ。男女とか、身分とか、恋愛とか。そういうの全然気にしなかった頃に戻りたい」
 あとは蒸らすだけにしておいて、彼女の話に耳を傾ける。
「わたし、ベディのこと、好きみたい。ね、おかしな話」
 少しだけ声を小さくした彼女は、独り言のようにそう呟いた。
 私だってそうだ。それこそ彼女が泣きじゃくったあの日からずっと。それでも決してそんなことはあってはならないと押さえ込んでしまって久しい。彼女もきっと弁えている。
「…なんで同じじゃいられなかったのかなあ」
 あの時の彼女の面影がちらつく。泣きそうな声にぐ、と唇を噛みながら紅茶を注ぐ。少しだけ時間をかけすぎた。いつもより苦くなってしまったかもしれない。



back
しおりを挟む
TOP



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -