なんで君は女なんだ?

「なんで君は女なんだろうね?」
「……はぁ」
 ああつまらないつまらない!そう言いたげにアストルフォは問いかけた。当人に投げかけたってどうしようもないが、そう言わずにはいられない。そもそも理性が蒸発しているのだから我慢も何も無いのだが。
「でも…仕方ないし…ね…?」
「ぐぬぬ…」
 由々しき問題だ…とアストルフォは頭を抱える。マスターである立香もそれは同じだった。彼女らがそんなどうしようもない問答をしているのは、お風呂屋の男湯と女湯の入り口のちょうど間なのだ。
 雪山を飛び出し、立香とアストルフォは2017年の日本に来ていた。特異点というわけではないがほとんど誤差のような異変が感知されたのでその調査に来たのである。調査、と言えば堅苦しいが実際一泊二日の温泉旅行のようなもの。アストルフォが同行しているのは持ち前の幸運で「マスターとふたりきりで温泉旅行券」を引き当てたからである。この募集の仕方はどうなのかと立香は未だに疑問に思っている。ちょっとした騒ぎ(最早暴動に近い)が起きたからだ。企画者のダ・ヴィンチちゃんがにやけていたので予想はできていたけれど。
 さて、人気の少ない時間を選んではいても完全にゼロではない。周囲を過ぎる人々の、騒がしいなぁ…なんて視線が突き刺さる。勿論アストルフォは気にしていないが。
「ボクはマスt…じゃなかった、リッカと一緒に入りたい!」
「…そう言われてもなぁ…」
 マスターである立香は女、アストルフォは男。これだけはどうしようもない。アストルフォの見た目なら女だと言い張れなくもないけれど、流石に裸では誤魔化しようがない。現代で犯罪者にはなりたくないでしょ、と立香はアストルフォを諌めた。
「それはそうだけどさぁ…」
 納得がいかないぞ、と口を尖らせるアストルフォに、ええい最後の手段だ、と立香は耳元に囁いた。
「ね、今晩の宿は家族風呂って言って、ふたりで入れるところあるから、おねがい」
「本当かい!?」
 途端、キランと星が飛びそうなくらいアストルフォの笑顔が弾ける。
「そっかそっか、じゃあまたあとでね!お風呂上がりの牛乳も待ってるぜ!」
「あっ…かかり湯してから入るんだよ!タオルは湯船に浸けちゃだめだからね!!」
 わかってるー!と彼の声は既に紺色ののれんの奥から聞こえてきたのだった。
 まったく…と呟きながらも立香の口元は緩んでしまっていた。さて、暫くして女湯まで聞こえてきた男性入浴客の驚きの声に立香がまた頭を抱えるのは自明の理である。



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