「ほら、おいで。」

「おじさん、やっぱり、これ、高い!」
 椅子から立ち上がりがくがくと脚を震えさせる様子は、まるで産まれたばかりの子鹿のようだと思った。
「んー…でも身長がなぁ…」
 パーティへの同伴にするには少女は少しばかり幼すぎる。すとんとまた座って「じゃあ他の人選んでよ!」と涙目になる彼女をまあまあ、と宥める。 ころころと表情や感情の変わる様が、非常に愛らしい。先程までは「このドレス肩が出てる!」だの「こんな高そうなネックレス怖い!」だのと騒いでいたっけ。
「まあほら、似合ってるぜ?耐久性さえあればガラス製をプレゼントしたいところだ」
「シンデレラじゃないもん!」
 それと正直、セーラー服の似合う彼女を、自分の手で大人に仕立て上げているようで興奮する。支配欲やらが刺激されるのだろう。へらへらとやり過ごしてぐつぐつ滾る笑いを抑えるのも上手くできているかどうか。
「いいじゃないか。今晩だけ、オジサンのシンデレラになっておくれよ」
 仰々しく彼女の前に跪き、手を取り甲にキスを落としてみせる。ぽぽぽ、と擬態語が付きそうなくらいに頬を染めた少女は、やはりかわいらしい。少女の手を取ったまま立ち上がった。
「ほら、おいで。」
 どうしても行かねばならないパーティが惜しい。このまま別の何処かへ連れ出して独り占めしてしまおうか―。そこまで考えが至り、随分とヤキが回ったものだなと自嘲した。



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