背中合わせの恋

「ヘクトール」
「まだ起きてるのかい、見張りはオジサンがやっとくから、ほら寝た寝た」
 ぱちぱちと枯れ木が爆ぜる音がする。遠くで獣の声がする。風か鼠か、草が揺れる。星がさらさらと降るように輝いている。背には微温い体温。彼の心地よい低音が振動となりわたしの背を伝わってくる。
「眠れないから」
「明日も演習は続くんだろう?無理にでも寝たほうが良いさ」
 ふふ、と笑いが溢れる。構ってもらえたのが嬉しいこどもみたいだ。これからに備えた野営の演習中だというのに、どうしても彼と二人の環境は嬉しくて仕方がなかった。案外恋に恋する乙女なのかもしれない。
「ヘクトール」
「ん」
「…やっぱなんでもないや。おやすみなさい」
 彼の愛に、こちらが恋で返すのは少し不躾な気がする。口を噤んで、瞼を閉じる。背には微温い体温。とくんとくん、と拍動を伝えている。



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