これは治療です

※設定の捏造が含まれます

「まあ、気にしなさんな。皆霊基は無事だし、マスターも擦り傷程度だろ?」
 へらぁと軽く笑いながら、男が私の肩を叩く。満身創痍のサーヴァントたちが手当のため運ばれていくのをぼおっと眺めていたわたしはびくりと大袈裟に彼の行動に応えた。彼の名前はヘクトール。智将と謳われていたとおり、戦略を練る際によく意見して貰っているのだ。不測の事態にも柔軟に対応できる彼の才能には、本当に頭が下がる。
 しかしながら、今日は大失敗だった。カルデアの予測を上回る強さの敵が数多く出現した。戦略如何でどうにかなるレベルではなかったのだ。それで彼以外のサーヴァントは、皆―。
「…ごめん、なさい」
「大丈夫だって、な?」
 それじゃあオジサン、シャワー浴びてくるぜ、とわたしの頭をぽんぽん撫でてヘクトールは行ってしまった。その後で、鼻に残る血の匂いが漂う。やけに濃い。獣の返り血でなく、肩を貸していた他のサーヴァントのものでなく、今もどくどく流れ出しているようなそんな。きっと彼だ。そこまで考えが至ったところで、血の匂いを判断できるティーネイジャーってどうなんだ、と思った。はは、と乾いた笑いが溢れる。

「ヘクトール」
 少し声を張って、スイングドアの向こうの彼を呼ぶ。ザアア、という温い雨の音の中に返事を聞く。
「怪我してるでしょう」
 証拠に新しい血の薄まった湯が排水口に吸い込まれてゆく。
「入るからね」
 シャワーの音は止まない。肯定と受け取る。制服を濡らすのは、と下着のみになり狭っ苦しいシャワールームに押し入った。
「う、」
 彼は振り返らない。自分も好きにしているからそっちも好きにしろとでも言いたげな態度に嫌悪感を示したわけではない。彼の背にまるで襷のように刻まれた傷に対してだ。ざっくり、という擬態語がこれほどに似合う映像は初めて見た。
 彼のことだ、背を切られてその後服だけ編み直したのだろう。ああ、素直に、言ってくれれば良いのに。
「…悪いね」
 露出した肉を打つ湯は痛いだろうにそれを声に出さず彼はそう静かに言った。もちろん最初からそのつもりである。
 傷痕を真白で薄いタオルで覆い、彼の背に抱きつくような体勢になる。そうして、そこに口付けた。
 原理はわからないのだが、どうやらマスターであるわたしが触れるとサーヴァントの傷が塞がるようだった。特に唇で触れると効果が強いようだ。通常ではありえないことらしいが、この特異的な状況のせいだろう、と思うことにしている。使えるものは使うべきだ。
 相変わらず蛇口はひねりっぱなしで湯が彼とわたしを濡らしていく。露出した素肌にぺったりと貼り付くタオルや衣服、そしてそれ越しの彼の体温。熱い。ただ、それだけだ。



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