美丈夫ですし魅了のひとつやふたつ

「どうせなら酷吏とかイーターに掛けてくれると助かるんだがねぇ」
「相性最悪だろうがはっ倒すぞオッサン」
と青年は壮年の男に適当に返しぽやんとした瞳でこちらを見つめる少女と目を合わせる。
「っあ…
赤い頬を更に赤らめた彼女は、言い合いをしていた二人のマスターである。
「まぁウチの愚弟も使えるんだろうけどさぁ」
「わざとじゃねえっつってんだろうが」
端的に言ってしまえば、彼女は自らのサーヴァントであるアキレウスに魅了されていた…いや、スキル:魅了を使用された状態だった、と言った方がいいだろうか。何にせよ、ぼおっとした顔でアキレウスを見ているだけになってしまっている。幸い今日はもうレイシフトする予定もトレーニングの予定も無いが、解決は早い方が良いに決まっている。指揮官が木偶になった、しかも原因は味方とあればもう最悪だ。
「で、何したんだっけ美丈夫君は?罰ゲームで甘ったるくてクサい言葉を言わされたんだっけ?なんでマジでやっちゃうかなぁ」
「…わざわざ解説ありがとうございますね」
嫌味ったらしく返した青年はしかし―いや当然なのだがバツが悪い顔をしている。先日の酒の席でアストルフォ相手にカードゲームで負け、件の罰ゲームをするよう決まったのだ。酒の席だとなあなあにしても良かったのだが、その場に酔っ払っていないマスターがいたのが悪かった。証人がいるのに実行しないのは、と気になってしまったがために今こんな状況なのだ。ちなみに当のアストルフォは罰ゲームのことなどすっかり忘れていたようだが。
「…どうにかすりゃいいんだろ」
「手ェ出したら承知しないからな」
すっかり立てなくなってしまっているマスターを俵担ぎにしたアキレウスに、いつものへらりとした仮面を剥いだヘクトールはそう告げた。

「マスター、聞こえるか」
「ん…
さて、担いで連れてきた先は彼女のマイルーム。ベッドの端に座らせ、アキレウスは目線を合わせるように屈んで彼女に声をかける。
「リツカ。イイ顔だな」
「ぅ、あ…?」
名を呼ばれ疑問の方が勝る彼女は、依然として瞳をハートマークにしたままだ。
「そんな蕩けちまうほど俺のこと好きか?」
「っうんすきすき
頬を辿るアキレウスの手に頬ずりをしながら彼女は応える。
「俺の言うこと聞けるな?」
「うん、なんでもする…
「じゃあ、」
彼女を抱き竦めるようにして、アキレウスは彼女の耳元で囁く。
―俺以外にその顔、見せないでくれるか。
ヒュ、と彼女の息が詰まる。
罰ゲームの台詞顔負けの糖度で、耳元で。彼女の鼓膜を揺らす囁きは最早快感と相違なかった。
「ぁ…」
暫くとろん、とした顔だった彼女も、徐々にいつも通りの表情へ戻っていく。
「ん、そうだ、その顔。いつもはその顔な」
「ぁ…アキ、レウス」
既に頬の赤みも薄れ、申し訳なさそうに俯く彼女が彼に呼びかける。
「ふたりのときは、いいの?」
「…ああ、勿論」
ぽん、とマスターである少女の頭を撫で、アキレウスはそう笑って返した。



「えーーっボクのせいでマスター大変だったんだって!?大丈夫マスター!?!?」
「うわ、わ、大丈夫、大丈夫だから、落ち着いてアストルフォ」
翌日。そう心配そうにかつ大胆に、アストルフォマスターに抱きついていた。
「うぅごめんよぉマスター!」
「だからもう心配ないってば!!ほら!!」
そんなやり取りをしているのは朝の食堂。職員やサーヴァントは多くいたが忙しい時間であるが故にあああの子はまた何か、といった程度で深く追及する者はいなかった。

さて、マスターの魅了が解けたかどうかは不明であるのだが。



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