忠告?いいえ宣戦布告です。


「マスター」
「あぁ、アキレウス。どうした、のっ!?」
 マイルームへの道中、アキレウスに呼び止められたかと思えば軽々と抱き上げられてしまう。重いからやめてなんて照れる暇もなく、しかもまるで父親が子供に遠いところを見せるような体勢だ。彼の片腕に座らせられ肩に手を置いている状態だ。
「一体何が…」
 問いを言葉で返さず、彼は目線だけであちらを見ろと促した。視線の先。わたしの背丈では覗けなかった窓の向こう―今わたしがいるのは渡り廊下で、その下には食堂がある―を見下ろした。サーヴァントと、カルデアの女性職員が何やら会話している。サーヴァントの方は、ヘクトール。
「…い、いつものことじゃない」
「しっかり表明しとかねえと取られるぞ」
 妻にはなれぬだろうが、それでも。
 つきつき痛む心を押さえ込んで言った言葉を遮るように彼はそう言い捨てた。いつもよりも落とした声でそう囁かれ、ドクン、と心臓が一際強く脈打った。
 わたしとヘクトールは、一線を超えた仲だった。それは仕方のないことだったと、それから数度身体を重ねたといえど、わたしはずっとヘクトールへの好意をひた隠しにしてきた。だって、そんなの公私混同だ。けれども。言葉に、態度に出さなければ、相手に伝わらなければ思っていても同じこと。こんな不安定な関係、何時終わっても良いと思っていたけれど、やはり。彼に想いを告げようと決心したところで、こちらを見上げたヘクトールと目が合う。バチリ。彼の目の色が変わる。そうだ、今わたしを抱き上げているのは彼の宿敵とも言っていい男だ。
「アキレウス、アキレウス」
 彼を揺するようにしておろして欲しいとせがむ。けれども彼はヘクトールと睨み合ったままで動きやしない。
「わかったか」
 暫くしてようやくそう念を押されて解放された。
「わかった、わかりました…その、ありがとうございます」
 軽く礼をして、ぱたぱたと廊下を走っていく。早く、早くヘクトールの下へ行かなければ。

 駆けていったマスターたる少女の背を見やる。魔術師としては…いや、ド素人の娘だ。召喚されてすぐの頃に過去の記録を閲覧したが、あの弱いながらもどうにか立ち向かう姿を、美しいと感じたのだ。勿論頼りないただの小娘である。それでも、何か心惹かれるところがあったのだ。
 それより、そんな少女をあの男のものにしておくには勿体無いという感情が心の内に住み着いている。こびりついてどうしても消えてくれない。幸い二人は曖昧な関係にある。真っ当な恋人関係(サーヴァントと生身の人間でこう言うのは不自然であるが)ではない。であるならば俺がどうしようと問題ないのであるが…まあ、彼女の気持ちを蔑ろにするには惜しい。だから少女に最終通告をしたのである。アイツから奪われてしまっても良いのか、と。



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