恋心は青白い尾を引いて

「冷えていないか」
 大丈夫ですよ、と肩にかけたブランケットをぱたりと彼のマントのようにひらめかせた。ドレーク船長とわたし以外いない見張り台。昼間は日光が肌に痛いほどだったのに日付を跨ぐ頃にはすっかり気温も下がってカーディガン程度では肌寒い。
「まだ熱いかもしれないが」
 そう言って彼はマグカップを差し出した。湯気からはほわん、と甘く香ばしい香りがする。ありがとうございます、とココアを受け取ってず、と一口だけ啜った。彼の言ったとおりココアはまだ熱く、触れた舌の先がピリピリと痺れた。
「綺麗に見えるもんですねぇ」
 真夜中の逢瀬の目的は、天体観測だった。今晩空いているか、なんて殺し文句を囁かれたときは流石に心臓が跳ね上がったけれど。見上げた夜空に煌々と輝くのは彗星。青白く尾を引いている様は、まるでヴェールをたなびかせる花嫁のようだ。
「次は四十八年後だそうだ」
 その声にちらりと隣を見れば、彼もまた上を見ている。それでもどこかそわそわしているのは、きっとこの暗い宇宙へのロマンを語り尽くしたいからなのだろう。美しい文字式に彩られたそれは、残念ながら彼以外には難解すぎる。それをわかっていて彼は我慢しているのだろう、可愛らしい面もあるんだなあ、と気持ち温くなったココアを一口。
「次も一緒に見ましょうか」
 なんて軽口を叩いて、また夜空に見惚れて数呼吸。彼からのレスポンスが無いことに首を傾げてドレーク船長?と声をかけてみれば。
「何赤くなってるんですか」
「っいや、何でも無い」
 曖昧な否定をする彼に、ああそうか、まるでプロポーズだ、と膝を打った。
「綺麗だな、彗星」
「ええ、とても」
 照れ隠しのように言った彼に頷いて、十センチだけ彼に寄る。彗星が見れなくたって何年後だって一緒に居たいと思ってるんですけれど、なんて言葉は彗星への称賛の溜息に溶かし込んだ。



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