「ねぇ?見てみて」

私はパチリと眼を見開けて入念にマスカラを伸ばし付けた長い睫毛をネジに見るように催促する。

そしたらネジは顔を近づけてきて、今日も蕾は頑張ったなって褒めてくれた。けれど、私がどんなに綺麗になろうと努力して頑張ったところで、ほんの数センチ前にいるネジの端正で綺麗な顔立ちには敵わないのだと思う。

男性に美しいと言うのは間違った例えなのかもしれないけれど、ネジの顔は掛け値なしに美しい。ちょっとした動作でも美しいと思ってしまう。

私は今まで自分の顔に自負を持ち生きてきたし、だから私に寄ってくる男達から囁かれる言葉も当たり前なのだと思い込んでいた。けれど、ネジは私に興味すら示さず通り過ぎて行き、ただ一人を見詰め続けていたのだ。

私の双子の姉、花を。

それに気づいた瞬間、私はどうしようもない敗北感の様な何かが胸に膨らんでいった。何故ネジは何も努力もせずに部屋に引きこもる姉を好きになったのだろうか、私は不思議でならなかった。

どうしてもネジを手に入れたくて、私は生まれて初めて自分から告白をし必死に好かれ様と努力した。 そしてやっとネジを手に入れ、私達は恋人同士になれたのだ。

「そういえば最近、街で花とシカマルを見た」

ネジがそう言った後、私は思いっきり顔をしかめてみせた。

「それっていつの話し?」
「え?」
「花、シカマル君と別れたみたいだよ。最近、泣きながら家に帰ってきたし。喧嘩でもしたんじゃないの?」

ネジは眉間に皺寄せて、何度も瞬きを繰り返した。

「そんなに花の事が気になるの?」

私は胸を押さえる。自分が問い質した筈なのに答えを聞くのが怖い。

「…分からない」

必ずと断言して良いほど曖昧な言葉など吐かないネジが、眉間に皺を寄せたまま何か悩む様に言った。

「分からないって、どういう事?私の事は好きじゃないの?!」
「分からない」
「分からないじゃ私もネジの気持ちが分からないよ」
「俺も曖昧な気持ちで蕾と付き合っていたくは無いし、蕾も辛いだろ?気持ちがはっきりとするまで、別れてほしい」

いやだ、って私がどんなに言葉を並べても、あの優しいネジがごめん、なんて言うのだからきっともう本当に終わりなんだ。

私はまた大切な人を花に奪われてしまった。

嘘だと笑ってキスしてよ

「別れるなんて、嫌だよ」


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