目が覚めると愛しい花の寝顔が横にあった。俺の片手を握り締めたまま寝ている花をおもわず強く抱きしめてしまう。そのせいで花は目を覚ましたみたいで、おはようと笑って抱き締め返してきた。

強く抱き締めると潰れてしまいそうなぐらいに小さく細い花。なんか、小動物系?あれって、なんだったっけ?

「…どうしたの?そんな顔して?」
「あれだよ、あれ」
「あれって?」
「なんかハムスターっぽいよな、花」
「ハムスター?急にどうしたの?」
「なんでもねーよ。それより今日行くとこ決めたのか?」

そう言うと花はまだ決めていなかったようで数分黙り込む。そして二、三度、瞬きをした後、何かを思い出したみたいで花は「欲しい物があるの」と言った。

「じゃあ、行くか」
「うん」

笑って頷いて花は出掛ける支度を始めた。

支度が整い、里で一番、賑やかな通りに向かう。人混みがまだ苦手みたいで花は俺の半歩後ろを歩く。

「大丈夫か?少し顔色悪いけど」
「全然、大丈夫」
「俺のそば離れんなよ」

うん、と花は頷く。眼球が潤んでいた。暫く歩くと花は小さな店を指差した。

「あのお店、入ろ?」

花に手を引かれ、小さいけれど落ち着いている外観の店に足を入れる。店内はいかにも女が好きそうな雑貨屋だった。花はキョロキョロと店内を見回し何かを探しているようだ。

「なに探してんだよ?」
「えっとね、あれ!あれとって」

そう言って棚の上に置いてある白い兎のヌイグルミを指差す花。ピンク色のリボンが首に付けられていて愛らしい顔をしている。

「これか?」

そう言ってヌイグルミを取り花に渡す。

「ありがとう、うん。このこが良い」

ふわりと笑った花の顔が戸惑うほどに幼く、子供っぽく見えた。

花はそのヌイグルミを抱えて小走りにレジへ向かう。勘定を済ませ、ヌイグルミを直ぐに抱き締め、先に外へ出ていた俺の所へ戻って来て花は一息吐いて言った。

「部屋でね、一人でいると寂しいから。前は平気だったのに、シカマルと付き合いだして私、弱くなっちゃったのかも」

そう言った花の唇に指先で触れる。

「シカマル?」

名を呼ばれると同時に唇を塞いだ。弱くなったのは花だけではない、俺も花の事を考えるだけで。

これって軽く依存してんだよな、花に。

ドサリと花の足元にヌイグルミが落ちた。唇が離れる。さっきまで、あれほど大切そうに抱き締めていたヌイグルミを拾おうともせず、花は俺の後ろを見詰め続ける。

「…花?」

後ろを振り返ると、そこにはネジがたっていた。

「シカマルと花じゃないか」

手をちょいと挙げて近づいてくるネジ。

「よお、久しぶりだな、ネジ」
「ああ、久しぶりだ。それより二人でどうして此処に?」

下を向いたままで花は俺の顔を見ようともしない。

「花と、付き合ってっから」

ネジは一度、瞬きし視線を花に移す。

「そうか。どうりで最近花は綺麗になった訳だ」

じゃあな、と一言付け足してネジは俺達から遠ざかっていった。


行き交う人の波を泳ぐ


どれだけの言葉を尽くせばこの気持ちが伝わるのか。


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