「花は、綺麗になったわね」

喉の渇きを潤す為にキッチンへ行きコップに水を汲んでいると母が、お世辞ではないだろう本気の口調で言った。

どう返答していいのか数秒迷う。結局、私は無言でその場を去り部屋へ戻った。

真っ暗な部屋。暗い所は嫌い。寂しい、一人は嫌だ。シカマルと出会う前は、それらを自ら好んでいたのに。やはり私はシカマルと出会って変わってしまったのだと思う。

寂しさに耐えきれず家を飛び出し、シカマルの家へ向かう。シカマルの家の戸を叩くとシカマルのお母さんが顔を覗かせた。

「あら、花ちゃんじゃない」
「こんな時間に、すいません」
「なに言ってるの。花ちゃんならいつでも大歓迎よ」

顔いっぱいに微笑んで、家の中へ入るように催促される。リビングへ入るように言われ、どこへ座ればいいのか迷っていると肩を叩かれた。首を捻り振り返るとシカマルがいた。シカマルの顔を一度見ただけで安堵し息を吐く自分がいる。

「急に来ちゃって、御免ね」
「別に良いけどよ。晩飯、食ってきたのか?」

手を引かれリビングをあとにしシカマルの部屋へ入る。シカマルの部屋へ入るのは二回目だ。初めてシカマルと話したあの雨の日以来。相変わらずシンプルで、なにも変わってない。

「何も食べてないけど、食べたくないからいいの」
「ダイエットでもしてんの?」
「ううん。そんなんじゃないよ」

ふーん。そう言ってシカマルはそれ以上、問うてはこなかった。やっぱり、あの雨の日と変わらない。シカマルは無理に問いただしたりはしない。

「シカマル、さっきまで寝てた?」
「寝てたけど。なんで?」
「寝癖ついてるもん」
「まじかよ、早めに言ってくれ」

照れたように顔を赤らめる彼が本当に愛おしい。きっと私はシカマルが思っている以上にシカマルの事が好きなんだ。

「今日、泊まってくんだろ?」

シカマルが背伸びをするように手を伸ばし言ってきた。その表情も口調も優しく屈託のないものだった。

「いいの?」
「いいけど、それよか明日どっか行こうぜ」
「行く、行く!」

それってデートだよね?デートなんて初めてで、シカマルと二人で出掛けれるなんて、今から凄くドキドキする。

「お前にやけすぎてキモイ」

ぼそりと含み笑いながらシカマルは言った。

「ひどい!キモイって言った方がキモイんです!」

怒る私をシカマルは「はいはい、分かったから」って子供をあやすように頭を撫でる。それからシカマルが服を貸してくれて、それに着替える。

「こっち見たらだめだよー」
「誰も見たりしねーから、早くしてくださーい」

着替えたけれどやっぱりシカマルの服はブカブカだった。その姿を見てシカマルはまた笑った。

「いいじゃんそれで。それより、早めに寝ないと朝起きれませんよー、花さん」

そう言って私の腕を引っ張っりシカマルと一緒にベッドへ入る。

「花、冷たすぎ」
「冷え性なんですー。シカマルは暖かいね」

そう言ってシカマルの足にピトリと自分の足をくっつけるとシカマルはブルリと身震いをした。だけどシカマルは私を突き放したりせずに抱きしめて「なかなかあったまんねーな」って呟いた。

それから二人でたわいもない会話しをしていると返事が返ってこなくなった。シカマルの頬をつついてみる。だけどシカマルは目を閉じたまま、規則の良い呼吸を繰り返している。

「おやすみなさい」

こっそりとシカマルの手を握って私も目を閉じた。


一生一緒にいよう、これが一生のお願い。

明日も、明後日も、これから先も。


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