団子屋の奥の席に座る。日に日に花への想いは高まり、衰えず高まっていく。いま現在も、まるで熱病だな。今まで味わったことのない感情だ。 花と目が合う。いかにもわざとらしい溜め息を吐く。花が俺を誘うなんて珍しいし、きっとなにか有る。 「で、なんかあったの?」 思いのほか低い声が出た。花にほんの一瞬、怯えに似た光が過ぎった。 「あのね、言いたいことがあるの」 花はぼそぼそと身体の中のものを吐き出すように、ゆっくりとした口調で話し始めた。 「どしたんだよ改まって、なんかあったか?」 こくり、と花の顔が上下する。 「あの、ね。初めて誰かに好きって言われた」 口がぽかりと開いたのが自分でもわかった。俺以外の誰かも花の事が好きだと?焦りに嫌悪、どろりと重い感情が溜まっていく。 「で、誰から言われたわけ?」 「えーっと、隣のクラスの人だったけ?」 「どーすんだよ?」 「どーするって?」 「付き合っちゃうの?」 「初めて、だから…」 初めて好きだって言われたから、なんなんだよ?お前はネジが好きじゃなかったのかよ? 「付き合うの?」 「初めて人に直接好きだって伝えられて、ドキドキしてるだけかもしれないけど、すごく嬉しいの。それにね」 花が口ごもる。 「なんだよ」 「ネジ君を忘れていきたいの」 床に皿が砕け散り、茶が床に滴り落ちる。俺がテーブルを叩いていた。理不尽な怒りをぶつけていた。 「ネジを忘れる為にそいつを利用するのか?ネジを忘れる為なら誰でもいいのかよ?」 尖った感情は否応なく花に向いてしまう。 「そんなんじゃないよ!ただ…、」 「とにかくそんな理由でそいつと付き合うのは止めろ。俺が命令してんだ、言うことを聞け」 いい加減にしろ、喉元まで込み上げてきた怒りを辛うじて抑え込む。 「シカマル」 花が珍しく「シカマル」と読んだ。 「私、ずっと諦めて逃げてたから。本当は逃げちゃダメって分かってたのに、逃げてた。そっちの方が楽だから。全部、蕾のせいにして諦めてた。でもね、シカマルと出会って、色々教えてもらって、ずっと…考えてたの。まだネジ君に未練が無いって言えば嘘になっちゃうけど、…考えたの」 「…そうか」 「うん」 花が目を細めて笑う。ああ、そうだったな、花は自分の誓った事を曲げ無い強さを持っているんだ。だから俺は花に惹かれていったんだ。 「花」 「なに?」 「今更、遅いかもしれないけど。俺がそいつより先に好きだと伝えていたら、この現状は変わっていたか?」 「…え?」 「花、好きだ」 二人の関係を壊すしかできないこんな想いなど |