にゃんこ


風呂に入り終わり部屋に戻って携帯を開くと梓からのメールと名前からの着信が一件表示されていた。名前とはいつも他愛も無いメールのやり取りをしているのだが、電話をしてくるのは珍しい。何かあったのではないかと着信履歴を急いで開き名前の番号を鳴らす。

「うわっ!一也おきてたんだね。折り返しかかってくると思ってなかったから嬉しい」
「ごめん、風呂入ってた。珍しく電話したりして、なんかあったの?」
「あのね、」
「うん」
「今ね学校の近くの公園にいるんだけど・・・」
「はあ?!お前、こんな時間に何で公園にいんだよ?!危ねえーだろ!」
「えっと、ちょっと色々と理由がありまして・・・」
「公園に一人でいんの?」
「うん」
「直ぐに行くから待ってろ」

携帯と財布をポケットに突っ込み、寮をそろりと抜け出し学校から一番近い名前のいる公園まで走る。

「名前!」

街灯の下のベンチに膝を抱えて座っている名前を見つけ名前を呼ぶと名前は急に声が聞こえ驚いたのかビクリと肩を揺らし、顔を上げて俺の姿を確認すると安心したのか胸を撫で下ろしこちらに近づいてきた。

「一也っ、」

急に冷えこんだ夜に、名前の吐く息は白い。

「寒いだろ?これ羽織っとけ」

制服の名前に今まで自分が着ていたジャージを脱いで渡すが名前は首を横に振った。

「いいよ。一也の方がお風呂でたばっかりなんだから風邪ひいちゃうよ!」
「俺は平気だから」

そう言ってジャージを再度渡すと名前はありがとうと笑ってそれを羽織った。

「・・・それで、なんでこんな時間に一人でここにいるわけ?」
「あのね」
「うん」
「にゃんこ、学校の帰りに捨てられてたの」
「にゃんこって、猫のことか?」
「うん。その時は名前の住んでるアパートペット禁止だからそのまま帰っちゃったんだけど、やっぱり後から心配になっちゃって。けど、名前の家では飼えないし」
「・・・うん」
「一也!一緒に助けに行こうよ、ね?」

名前以外に頼まれたなら確実に面倒臭いと断わったのだが、俺は昔から名前に頼まれると何故だか断れない。

よし行くかと呟いて、二人で猫が捨てられていたというジャングルジムの場所へ行くことにした。そのジャングルジムの横の街灯は電池が切れかけているのかチカチカと点滅していて、名前はこれが怖くてジャングルジムに一人で近付けなかったのかと瞬時に分かって吹き出してしまった。昔から名前はホラー映画や幽霊とかそういった類いのものが苦手なのだ。

一歩づつ、ジャングルジムに近づき俺の後ろに隠れて名前は付いてくる。

「寒くねーか?大丈夫?」
「ちょっとだけ寒いけど、」

一也のジャージ着てるから大丈夫と名前は笑ったが鼻は赤いし鼻水は垂れちまってるし。

「ププッ」
「ちょっと、一也。なんで笑ってんのよ」

頬を膨らませ本人は怒っているつもりだろうが、まだ鼻水垂れたまんまだし、余計に可笑しくて笑ってしまう。

「悪い悪い。それよりさっきから鼻水出てるし取り敢えずふけよ」
「え、嘘?!鼻水出てるとか恥ずかしいんだけど!あ、だからさっきから一也笑ってたんだ」

名前は鼻から顔全体が赤く染まるのを必死に手で隠す。

「一也の馬鹿!」
「ププッ、ごめんごめん」

純粋に幼い頃から名前といる空気は心地好い。時々名前は他者に対して無神経な言葉を発することもあるが、今日みたいに捨てられた動物をほって置けない優しさも、人見知りだけれど心許した相手には凄く素直で照れ屋な所を俺は知っている。ただ名前は感情を表現するのが下手で、それを率直に口に出してしまって、それがとても攻撃的に聞こえてしまうだけなんだ。

「一也!あそこっ!」

ジャングルジムの横に無造作に置かれたダンボールを指差し、名前は足を速めた。それに近づいて二人しゃがみ込み中を覗いてみると、その中には猫の姿はどこにも無かった。

「・・・にゃんこ。学校から帰る時にはそこにいたのに、居なくなっちゃった」
「うん」
「もっと早めに、助けてあげとけば良かった」

名前は何かの糸がぷつりと切れたのか、子供の様にわんわんと泣きだした。

「名前。明日もここに二人でまた来てみようか」

名前の大きな瞳から溢れ出る涙を拭う。

「っ、けど、一也は野球でしんどいだろうし、」
「うん」
「一也の迷惑になるから、明日は名前だけで、またにゃんこ探す」
「余計な心配すんな、馬鹿。いつ俺が迷惑だとかしんどいとか言った?言ってないだろ?」
「うんっ、」
「だから泣いたりすんな」

いつもの様に頭を撫でると、名前は泣きながら何度もありがとうと呟いた。


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