「御幸君と倉持君はきっと修学旅行に行けないと思うから他のクラスの野球部と特別に纏めた班になってるから」

その資料に目を通しておいてね、と黒々とした長い髪を綺麗に一つ縛りした学級委員長が数枚のプリントを纏めた紙を手渡す。

「休み時間に、態々ありがとう」

にこりと笑うと学級委員長は頬を赤く染めてそそくさと席に戻って行った。

受け取ったプリントに目を通しているとガラリと教室のドアが大きな音を立て開き、顔を強張らせ名前がつかつかとこちらに向かって直進してくる。

「ちょっと一也!」
「なんだよ?急に耳元で大きな声だすなよ」

ビックリすんだろと目線をプリントから離さない俺に余計に腹を立てたのか名前は俺の手からプリントを奪い取る。

「さっきのはどうゆうつもりで名前以外の女にあんな態度とってたわけ?」
「・・・さっきのって?」

惚けないでよと癇癪気味に叫んで、乾いた音を立てプリントで机を叩く。

「名前以外の女に笑いかけないで!あのガリ勉委員長、絶対一也の笑顔みて顔赤くしてた!」

まあまあ落ち着いて、と怒りで大きな瞳に涙を浮かべて震える名前の手を握る。

また始まったよとクラス中の視線が集まっているみたいなのでそのまま名前の手を握り、こちらを申し訳無さ気に見つめていた委員長に手が空いている左手を顔の前に出し頭を下げて謝り、下を俯向く名前を引っ張る様にして教室を出る。

使用されていない教室に入りドアを閉めて、先程からずっと俯いたままの小さな頭をごめんねと撫でる。

「まるで私だけが一也のこと好きみたい」

とうとう名前の大きな瞳から溢れ落ちた涙を指で拭いながら頭を撫でる。

「そんなこと無いよ。俺も名前のこと、ちゃんと好きだよ」
「・・・本当に?」
「うん。じゃないとキャプテンになって手一杯の時に名前と付き合ったりしないだろう?」
「・・・名前の存在が邪魔になってない?」
「なってるわけないだろう」

名前を抱き寄せ、ぎゅっと強く握りしめる。抱き寄せた肩は薄く骨々しくて、強く握りしめてた力を弱めて俺の胸に収まる小さな頭を繰り返し撫でる。

「そんなに不器用な方じゃないし、ちゃんと野球も名前も両立させて、大事にしてるから」

俺の胸に顔を埋めていた名前は顔を上げて、一也大好きだよといつもの様に笑った。その頬には涙の跡が薄く残っていて、それを指で優しく拭う。

「怒鳴ったりしてごめんね」
「俺はずっと前から名前のこと好きだったんだから簡単に嫌いになんてなれないし他の女の子に余所見なんてしないし、そんなに疑ったり怒ったりしなくても大丈夫だからさ」
「うん」
「信じてくれる?」
「うん!もう一也の教室で怒鳴ったり泣いたりしない!」
「・・・そうやって前も言ってただろ」

態とらしく大きく溜め息を吐く俺に名前は抱き付いたまま背伸びをして、俺の唇に自分のそれを合わせてごめんねと悪戯を終えた子供の様な顔をして笑う。

「毎回それしたら許してくれると思ってんだろ?」
「え、許してくれないの?」

まあ結局はいつも許しちゃうんだけどさ、それじゃあ詰まらないしどうしようかな、と言うと名前は俺の首に手を絡めて何度も小鳥がするそれの様に角度を変えて唇を何度も合わせる。

「はいはい。もう分かったから」
「じゃあ許してくれる?」

許すに決まってるだろう俺は昔から名前にだけは弱いんだから、とこいつにだけは教えてやらない。

眉を下げて俺の顔色を伺う名前の顎を持ち上げて、名前の形の良い唇をそれで塞いで、これでわかっただろうと俺も笑い返す。


私の春を青くした人



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